第64話 新しい館ですが何か?

 ランドマーク邸の建て替え作業が始まった。


 迎賓館への一時的な引っ越し作業はすぐに終わった。


 設計は整地と土台に関わるリューと地元の大工によって話し合われた。

 この際、ランドマーク領のシンボルになるようなものにして、今後、建て直す必要がない様にしようという事になった。


 リューの個人的な意見としては純和風建築にしたかったが、瓦屋根など土魔法では作れないものが多いので断念した。


「組屋敷みたいなのに憧れてたんだけどなぁ……」


 完全にリューの個人的な趣味で最初、建築しようとしていたが、流石にそういうわけにはいかず、ファーザの意見を取り入れて小城を作る事にした。

 それなら、リューの土魔法ですぐに作る事が出来る。


 リーンと協力して広範囲の整地を済ませると、1か月かけて立派な円筒形の塔が四方にあり、それを繋ぐ回廊と建物、その中央、屋上には空中庭園があり、地下2階、地上3階建ての文字通り城を建築してみせた。


「……リュー。……さすがにこれはやり過ぎではないか……?」


 ファーザは建築途中から大きくなっていく屋敷に期待と不安を感じてはいたが、完成するとその想定外の規模に呆れてしまった。


「ランドマーク家の象徴で、ランドマーク家の歴代当主が受け継ぎ繋いでいく城として作ってみたよ。これで当分は建て替えの必要がないでしょ?」


「だがな、規模が大きすぎるだろ……!」


「大丈夫だよお父さん。内装以外は土魔法だから、ほとんどお金はかかっていないのでちゃんと予算以内で抑えれてるよ」


 リューが良い笑顔でグッドサインをしてみせた。


「そうだが、世間体があるだろう……」


「スゴエラ侯爵からは、独立した男爵家なのだから、好きにすればいい。と、言われてるじゃない」


「そうなんだがな……」


「お父さんの世間での評価は今、このくらいだと思っていいと思うよ。これまでの屋敷は控えめ過ぎて、与力時代の仲間にも呆れられてたじゃない」


 リューはタウロの婚約騒ぎでの話を持ち出した。

 確かに主要な道路の立派さに比べて、屋敷のみすぼらしさにお金の使い方が珍妙と揶揄されていた事をファーザは思い出した。


「そうか……、そうだな!確かにリューの言う通りだ!よし、これからこの館をランドマーク家の象徴にしよう」


 やっとファーザはリューの説得に頷いて納得するのであった。



 その数日後、冬休みに入った兄のタウロとジーロ、そして従者のシーマが帰ってくるのだが、見慣れた素朴な屋敷が無くなり、その場所に小城と言わんばかりの館が出来てる事に度肝を抜かれる事になった。


「お帰りなさい!」


 リューとリーンが兄達を玄関で迎えたのだが、驚いた顔は想定内だった。

 というか建設を急いだのは兄達が帰ってきた時に驚かせるのが目的のひとつだったのだ。


「……これは、一体どういう事なの?」


「夏はまだ、……家あったよね?」


「道、間違えたと思ったっす……」


 館を前に3人は馬車から降りた状態でポカンとしたまま見上げたままだったが、リューが新たな家に招き入れると3人は入ってすぐに大きな階段が迎え入れる吹き抜けの広間に改めてびっくりした。


「あ、メイドや使用人もまだ、この家に慣れてないから迷子にならないでね」


 リューはそう言うと兄達の新しい部屋に案内する。

 二人は二階の一室をそれぞれ用意され、館に入ると螺旋階段があり上の階にいけるようになっている。


 二人共、以前は一緒の部屋だったので急に広くなった事で、落ち着かない様子だった。


 シーマは1階に個室を与えられて喜んでいた。

 これまでは他の使用人と同室で狭かったのだ。

 なので荷物もぎっしりだったのが、スペースがあり過ぎて落ち着かないほどで一か所に置いていた荷物を広げて置いてスペースを何となく埋めるという無駄な事をしてみるのだった。


 リューの部屋だが、タウロとジーロほど広い部屋ではなかった。

 三男なのでその辺りはわきまえてるつもりでいた。

 それにマジック収納があるので、広い必要性が無いのだ。

 リーンには広い部屋を用意するつもりでいたのだが、そこは怒られた。


「従者が主より広い部屋に住めるわけがないでしょ!」


 ごもっともなので、もう少し、広い部屋にリューは移動してリーンにはその隣の部屋に入って貰う事にするのだった。

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