第56話 武者修行ですが何か?

 昼過ぎ。


 リュー、リーン、タウロ、ジーロ、シーマの5人は装備を整えて、魔境の森の境の城壁まで来ていた。


 途中はもっぱらここまで乗ってきた『乗用馬車1号』の話題で持ちきりだった。


 特にジーロが、これなら馬車が苦手な人も苦にならないねとか、長旅に向いてるとか、王都までの往復がトラウマになることないよねとか、本人が十分トラウマになってるっぽいしつこさで熱く語っていた。


 ジーロお兄ちゃん……、やっぱり王都往復は相当苦痛だったのね……。


 リューはジーロに心の底から同情したのであった。



 タウロはこの魔境の森での戦いについて、話には聞いていた。

 本人が学校で留守の時であったから、自分もその時ここに居ればと忸怩たる思いがあるようで、


「ジーロやリュー達が危険に身を晒して戦っている時、自分だけ勉強してたのを知った時は情けなかったなぁ」


 と、つぶやいた。


「タウロお兄ちゃんが勉強してる間に貴重な体験したよ」


 ジーロがタウロの罪悪感を払拭する様に冗談を言った。


「そうそう。タウロお兄ちゃんは残念だったね。おじいちゃんとお父さんが凄かったよ。確かに危険はあったけど、あの体験は貴重だったね」


 リューもそれを察してタウロに意地悪な言い方をした。


「二人とも……。それは羨ましいな。ははは!」


 タウロは二人に感謝する様に笑って罪悪感の全てを吹き飛ばすのであった。


「カミーザおじさん、みつけた」


 リーンが城壁上から森の一か所を指さした。


 みんながその指さす先をみると丁度いいタイミングで爆発と共にはるか向こうの森の一部が吹き飛んだ。


 カミーザお得意の火魔法を使って魔物を吹き飛ばした様だ。


「おじいちゃん、派手にやってるね」


 タウロが驚いたがリューとリーンは見慣れた光景だったので、


「いつもここでは、あんな感じだよ?」


 と、フォローになってないフォローをした。


「そうなんだ……。じゃあ、とりあえず、行こう」


 タウロが気を取り直して一同を行くように促す。


 一行は頷くと、カミーザと合流する為に森に入るのだった。




「おじいちゃーん!」


 リーンの案内で最短でカミーザの足跡を辿ると森の奥でカミーザを発見した。


「おー、なんじゃタウロ達も来たのか、少し遅かったのう。もう少し早かったら、オーガ達と戦えてたぞ」


 タウロとジーロ、シーマはオーガと聞いて驚いた。

 オーガは冒険者の間ではCランク帯の討伐対象で、鬼の様な容姿をした魔物だ。

 その習性は武器を持ち、鎧を身に纏い、戦士然としていて、戦う事を喜びとしている厄介な相手だ。


「それは残念!前回、勝負つかなかったから、やりたかったなぁ」


 リューがリーンと相槌を打つ。


「え?リュー、相手はオーガだよ?そんな大物相手にして危険じゃない?」


 タウロが自分の弟が想像以上に危険な事をしてる事に動揺した。


「うん、強いよね。オーガ!リーンと二人がかりで、いい勝負だったから、お兄ちゃん達と一緒なら必ず勝てたのになぁ」


 リューが残念そうに言う。


 うちの弟、感覚が麻痺してる!


 タウロはリューとリーンに呆れたが、そもそも祖父の教育方針が危険なのかもしれないと原因を考えるのであった。


「リュー、カミーザおじさん。魔物が九時方向から二体接近してる」


 リーンが『索敵』で、魔物の接近にいち早く気づいた。


「お?さっきのオーガの連れかの。よし、タウロ達5人で戦ってみろ。オーガ二体は難敵だがうまくチームワークで倒すんじゃ」


 カミーザはそう言うと、火魔法を唱えると、魔物と自分達の間の森を吹き飛ばした。


「ほれ、スペースは作ってやったから頑張れ」


 カミーザは高みの見物と決め込んだのか、五人を前に出るように促す。


 タウロとジーロ、シーマは戸惑ったが、リューとリーンは当り前の様に前に出ると、


「タウロお兄ちゃん。左はボクとリーンが、右はお兄ちゃんとジーロお兄ちゃんとシーマがお願い」


 言うと丁度、茂みからオーガ二体が現れた。


「よーし!リーン、今日こそ勝とう!」


「そうね!」


 リーンも頷くとオーガに戦いを挑んでいく。

 タウロもリューに遅れてはいけないと駆け出した。

 ジーロとシーマも慌てて剣を抜くとタウロに続くのであった。

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