第38話 消息が途絶えましたが何か?
エランザ準男爵の逆恨みによるランドマーク家への襲撃事件の話は、スゴエラ侯爵領全域にすぐ広まった。
それはエランザ準男爵が隣国に機密情報を売り飛ばしていた事実で衝撃を与え、この問題はスゴエラ侯爵の手を離れ、エランザとその一党は王都に罪人として送られる事になった。
ランドマーク男爵は事件を暴いた手柄もあり、エランザ準男爵領の統治移行がスムーズに行われたのだが、その二か月後、国王陛下直々に子爵への昇爵の提案がなされた。
さすがにこの速いペースでの昇爵には他から反感を買うだろうという事で、ファーザは直接断る為に、また王都に行く事になった。
リューも今度こそ付いて行きたい気持ちがあったが、新領の道の整備にランドマークの街の城壁も完成していない。
それを考えると、王都までの往復の時間で色々と出来る事がある。
なので今回は次男であるジーロに譲る事にした。
「なんじゃ、リュー。ファーザに付いて行かなかったのか?」
新領の道の整備をしていたリューを、セバスチャンと領兵を率いたカミーザが発見した。
「うん。おじいちゃんは何でセバスチャン達とここにいるの?」
「今から、エランザの住んでた邸宅内の物の整理と取り壊しじゃわい。あんな無駄に立派な建物はいらんからな」
「ああ、あの屋敷は……。仕方ないよね。趣味が悪いもの」
納得したリューは屋敷の中に興味が沸き、カミーザに付いて行く事にした。
屋敷の内部は準男爵のレベルにしては贅沢極まりない作りだった。
これが、領民に重税を課して搾り取った結果なのだろう。
うちも、お金を貸してたのでその一部はこの調度品の数々に変わったのかもしれない。
「やれやれ、悪趣味の塊じゃわい。こんなものにお金をかけて喜ぶのは自分だけだろうに」
近くにあった壺を無造作に手に取ると眺めながらカミーザが呆れた。
「それは、金貨8枚相当の価値があります!」
管理を任されていたこの屋敷のメイドの一人が、慌てて前に出る。
「そうか。ワシには全然わからんわい。この執事のセバスチャンにひとつひとつ教えてやってくれ。処分する時に助かる」
カミーザは壺を元の台に戻すと手を上げてみせた。
リューは一通り、見て回ると2階の執務室に向かった。
書類をいくつか見てみたが、際立って問題はない。
「……うん?」
側にある書棚の支え部分が宙に浮いてるのがわかった。
壁に固定されている?
リューは本をどけるとそこに小さい穴があり、そこに小さい突起物がある。
それを押すとカチッという音と共に書棚が壁からゆっくりとドアが開く様に動いた。
裏に隠し部屋があったのだ。
「本当にあるんだこういうの……!」
中に入ると色んな魔道具や、高価と思われる貴金属類、それにいくつかの書類や手紙があった。
「こ、これは……!?ヤバいんだけど……!」
そこにあったのは、隣国から届いたと思われる、スゴエラ侯爵の暗殺計画が記されている書類だった。
さすがにこの計画にはエランザ準男爵も反対していたのか、隣国側から決断を迫る高圧的な内容が記された手紙もあった。
「何じゃこの部屋は?……お?リュー、お前が見つけたのか?」
祖父のカミーザが隠し部屋に入ってきた。
「おじいちゃん、ヤバいものがあるんだけど」
「なんじゃそれは?」
リューが持っていた書類や手紙を上から覗き込む。
「……ほう。これは、いかんのう。計画が継続しとる可能性があるな」
リューの手から受け取ると、内容を確認し始めた。
「なんと、この計画は実行後、ランドマーク家に罪を着せる事になっとるのう。我が家も隣国には脅威らしい。わははは」
それはそうだろう。
先の大戦で隣国軍が侵攻して来た際には、当時のスゴエラ辺境伯が指揮する王国南東部貴族連合軍が、神出鬼没な奇襲戦を行って隣国軍の後方を脅かした、その急先鋒が祖父カミーザの所属する部隊だったのだ。
隣国にしたら痛い目にあわされたスゴエラ侯爵と、祖父は葬りたい相手だろう。
「これは直ぐに報告に向かった方が良さそうだ。ワシが直接行くから、リュー、あとは頼むのう」
「え、ボクも行きたいです!」
「ファーザも、タウロもジーロも、居らんのにこれ以上は屋敷を留守にするわけにいかんじゃろ。お母さんと屋敷を今守るのはリューお前じゃ」
リューの頭をポンと叩くとカミーザは1階に降り、セバスチャンを呼んで事情を伝えると、屋敷をすぐ後にした。
この後、祖父カミーザの消息は途絶えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます