第34話 大迷惑ですが何か?

「ファーザ騎士爵殿はおられるか!」


 エランザ準男爵は憤慨収まらぬという態度をみせて馬車から降りると、メイドが止めるのも聞かず屋敷に乗り込んできた。


 執務室で話し込んでいた祖父カミーザとリューは乱暴にドアを開けて飛び込んできたエランザ準男爵の姿に驚いた。


 また「ファーザ殿はどこだ!」と、エランザ準男爵の怒号を聞くと、


「なんじゃ、またお主か。位が上とはいえ、これは礼儀が無さ過ぎているのではないかのう?」


 と、カミーザがうんざりだと言わんばかりに嫌な顔をした。


「ファーザ殿はどこだと聞いている!今回ばかりは、隣領の誼と言えど見過ごせぬぞ!」


「そちらと誼を持った記憶はないのう」


「黙れ!ファーザはどこだ!」


「いい加減にせんか。息子は王都に行ってて居らぬわい。その礼儀知らずのお主のケツを蹴り上げてもいいのだぞ?」


 息子を呼び捨てにされたのでカミーザも静かに怒りをみせた。


「……むっ!わ、私が礼儀知らずなら、ファーザ殿は寄り親であるスゴエラ辺境伯に弓引く大逆賊人ではないか!」


「人の親を大逆賊人呼ばわりとは、ただ事ではすみませんよ?スゴエラ辺境伯に弓引くとは一体なんの事でしょうか?」


 リューはこの人は何を言ってるんだと呆れながらも、気になるワードについて問うた。


「街道のような道の整備を、隣領の私に許しも無く行ったばかりか、今度は城門に城壁まで作り始めるとは!貴様らがスゴエラ辺境伯の一部与力の貴族達と、何やら企む会合を開いた事も知っておるぞ!こうなったらファーザを引っ立ててスゴエラ辺境伯に私が忠臣である事を示す機会──」


 あ、この人思いっきり勘違いしてる。


 リューとカミーザは呆れたが、もう少ししゃべらせる事にした。


「私がファーザを捕らえれば、お前達一族郎党も縛り首だ。ふふふ、この土地も褒美で頂けるかもしれぬ。借金もチャラどころかコヒン畑も手に入って今まで以上に裕福に暮らせるわ。わははは!」


 とことんクズだな。


 リューはこの男の本音が聞けたのでこちらも話す事にした。


「父ファーザは今、”スゴエラ辺境伯様”と一緒に”昇爵の儀”の為、王都に出かけております。道の整備はそもそも自領の事なのでエランザ準男爵に許可を得なくてはいけないものではありません。さらに、城壁に関しては、すでに辺境伯様から許可を得ています。あまり高く作り過ぎて他から反感を買わない様にと注意を頂いてますのでそこはしっかり守っています。与力の同胞一行が来たのは事実ですが、それは兄タウロのお見合いの為です。ところで、先程から父を呼び捨てにされてますが、これからは同格になりますので、その辺りはお言葉にお気をつけ下さい。今回は勘違いが元での言動の様なので、行き過ぎた発言も祖父カミーザ共々、聞かなかった事にしておきます」


「ファーザ……殿が、昇爵!?そんな馬鹿な話聞いてないぞ!それに辺境伯の許可がある、だと!?」


 リューの言葉に唖然とするエランザ準男爵。


「馬鹿とは失礼ですよ。辺境伯様直々のご推薦があったからなのですから」


「くっ!私は認めんぞ。奴と同格になるなど!」


「それは、スゴエラ辺境伯の判断を否定するという事じゃぞ?」


 祖父カミーザが眼光鋭く指摘する。


「そ、それは……」


 口ごもるエランザ準男爵。


「あと、お越しになったついでに、お借りになってるお金の利息でも支払らっていって下さいますか?」


 リューが追い打ちをかけた。


「……ちっ!もう、要は済んだから帰る!」


 舌打ちするとエランザ準男爵は慌てて部屋を出て、待機してあった馬車に乗り込み、すぐ屋敷を後にした。


「一人で騒いで、罵倒して、ショックを受けて、迷惑なやつじゃの」


「でも、本音がはっきり聞けて良かったね、おじいちゃん」


 二人が会話してるとメイドが壺を脇に抱えて玄関に猛然と走っていく。


 祖父カミーザが何事かと見ると、メイドは扉を開けて外に出ると、勢いよく塩を撒くのが見えるのだった。


「なんじゃあれは?」


 リューに聞く、カミーザ。


「あれは疫病神から厄を祓う為の簡単な清めの儀式みたいなもので、塩を撒いてくれてるんだよ」


「ほう、そうか!うちのメイドはよくわかっとるのう。わはははっ!」


 リューの説明に納得すると二人で大笑いするのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る