第8話 新たなしのぎですが何か?

 前回の取り立て以後もランドマーク家が各方面に貸し付けていたお金は少しずつ回収されはじめ、財政面の足しになった。

 帳簿をちゃんとつける事で支出の無駄を省き、収支の安定化も図る。

 ここまでくるとファーザも安心してリューと執事のセバスチャンに任せる事にした。


 ここでいい流れをさらに上向きにしたいリューは、商人に取引を提案していた。

 それはコヒン豆を炒り、その豆を粉砕して粉にし、布の袋に入れそこにお湯を注ぎ、淹れた飲み物の商品化だ。


 コヒン豆はランドマーク家の領地内の森に自生していたものをリューがみつけて持って帰り、食べれないか炒った結果、前世のあるものに香りが似ていた事から、もしやと思ったものだった。

 そこで、この普通では食べられない豆を、借金で首が回らない農家に給金を出して採取をお願いしている。

 それと同時にその農家にコヒン豆の生産も持ちかけた。


 前世で言うところのコーヒー豆である、これはランドマーク家の新たなしのぎに……、副業になりそうな予感がした。


「……最初、この黒い液体の見た目には驚きましたが、いい香りに苦み、深い味わい、スッキリした後味。癖になりますね。元が何かは気になりますが……、今はそこは聞きません」


 どんなものを使用してるかはまだ内緒だった。

 商業ギルドには申請済みで、近いうちに特許が取れるだろう、それまでは企業秘密だった。

 それと相手は普段、ランドマーク家と取引のある商人とは違う別の商人ということもあった。


 これまで信用していた商人は、取引請求書を水増しし、ランドマーク家から不正に搾り取っていた。

 それはランドマーク家の人々の人の良さに、つけこんだものだった。


 商業ギルドにはこれを証拠と共に報告し、代わりに取り引き出来る様に、この商人を紹介して貰ったばかりだった。


 信用はこれから積み重ねていく事になるだろう。


「生産ラインに乗り次第、商品化して、売り出しましょう。それまでは、私共は貴族やお金持ちにこの商品を売り込みます」


「貴族やお金持ち?」


「はい、新し物好きの貴族やお金持ちはきっと飛びつきますよ。お茶会などに持ち込んで試飲して頂き、お金を出して貰います」


「そこで元手を得て、大々的にということですね?」


「そういうことです」


 結果が出るのはまだ先だが、これが軌道に乗れば、現在、特別な特産品も無いランドマーク領内の財政も安定するだろう。

 借金を抱えた生産農家もこれで潤うはずだ。

 そうなれば、貸付金も回収できてお互いウインウインになる。


 さらにリューは他の商品化を考えた。

 しのぎと言えば出店、出店と言えば、粉ものだ!

 ということで、お好み焼き、うどん、パスタなどを思いついた。

 タコ焼きは近くに海が無いから諦めた。

 だが、うどんやパスタ、お好み焼きなら簡単だ、利益率も高い。

 幸い、この世界の食文化はあんまり発展していない。

 そこにランドマーク家をねじ込める隙があるとみていた。


 だが、自分はあんまり料理が出来ない。

 ここはランドマーク家の料理人に相談するのが手っ取り早いだろう。


「……初めて聞く代物ですね」


 ランドマーク家の料理長の自負もあったが、雇い主の三男からの奇妙なお願いに困惑しながら聞き、言われるままに小麦粉を捏ね、一度、布を上に引き、踏んだ。

 さらにそれを伸ばし、重ねる。

 それを太めに裁断していった。


「これでいいんですか?」


 初めての作業に、困惑しかなかったが、出来た太い麺?に、自分で驚いた。


「じゃあ、それを茹でて下さい」


 言われるままに茹でる。


 それを湯切りして皿に置く。

 試食してみると、コシがあってつるつるしている。


「これは……!」


 初めての食感に驚く料理人、そこへ、


「それじゃスープ作りもお願いします」


 マジック収納から森で獲った鳥と、同じく森でみつけた丸ネギなどの食材を渡す。


「これを使って、この麺に合うものを作って下さい」


 ここからは料理人の感性頼りの丸投げだった。


「わかりました!」


 料理人魂に火が付いたのだろう、食材を受け取ると調理に移るのだった。



 この後、いくつかスープの候補が出来て、リューが前世で食べた味に近い物を選び、二人で食べ比べした結果、「鶏がらスープのうどん」が完成したのである。

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