第3話 器用貧乏ですが何か?
リューは6歳になった。
そして、今日は洗礼の儀が行われる日だ。
領内の6歳になった子供たちが続々と教会に集まってくる。
子供とその両親が静かに席に着いて待っていると、時間が来た。
神父による、洗礼の儀の説明が始まった。
神父の説明によれば、
自分が持つスキル、”才能”を確認する事で、今後、どう努力すればいいかの指針にするのだそうだ。
例えば、自分のスキルが斧使いと裁縫ならば、斧とそれに関係する武術と裁縫の努力をする事で、それに付随した能力を得る事が出来る。
基本ステータスもそれによって上昇していく。
斧使いならば、「力」「体力」などが中心に上がったり、補正が付く様になったりする、裁縫なら「器用」が中心に上がったり、補正が付いたりする。
これらの能力の取得は『世界の声』が知らせてくれる。
『世界の声』とは、天上の神の声とも言われ、脳に直接聞こえてくるそうだ。
その声が聞こえる時が、努力して条件をクリアした瞬間になる。
神父の説明が終わると、1人1人奥の部屋に通されて、その子が持つスキルを確認する儀が行われる。
他の人の前で行わないのは、他人にスキルを知られる事で後々支障が出る事があるからだそうで、洗礼の儀後、人に話すかどうかは自己責任らしい。
もちろん、神父には守秘義務がある。
リューの番が来た。
父と母が背中を軽く押す。
「行ってきなさい、リュー。心配は何もないよ、すぐ終わるから」
「はい!」
二人に返事をするとリューは神父に部屋に入る様、誘導される。
室内には神を模した像があり、その手前にはガラスの球体を四角い箱にはめ込んだ形の道具が置いてある。
これが、スキルを見る為の魔道具というものらしい。
「では、神に感謝を祈りながら、この球体に手を添えなさい」
神父に言われるままに、リューは球体に手を添える。
するとまばゆい光が室内を覆う。
リューは驚いて手を引っ込めそうになるが、
「手を離してはいけませんよ」
という、神父の声に離しそうになる手を戻す。
「領主様のご子息のスキルは……ゴクドー?に、器用貧乏……か、うーん……、これは残念だ。あ、だが鑑定が別にあるな、これは重宝されますよ」
「器用貧乏は駄目なものなんですか?」
リューは神父の言葉に、心配を口にした。
「器用貧乏は、ほとんどのスキルが使えるようになる特殊なものですが、その反面、いかに努力を積もうとも、どれも大成する事がありません、スキルにはS+からG-まで才能評価があると言われていますが、器用貧乏はそれらの評価が全てG+止まり、いかに努力しようともこれ以上に上がる事はありません。ですが中にはマジック収納(小)など有用なものもあるから悲観なされないで下さい。それに、特殊スキルである鑑定が別にあるという事は、これは、個人の才能限界もありますが、努力すれば成長する可能性を意味します。ご安心下さい」
「この、ゴクドーとは何でしょうか?」
前世で聞き覚えがある職に就いていたが、まさかね。と、リューは思いながら神父に聞いた。
「この職について40年ですが、初めて見るスキルです。一度、領内に住んでいる有名な学者、サイテン先生に人物鑑定をして貰って分析して貰う事をお勧めします。それでは以上です」
「わかりました、ありがとうございます」
お辞儀をすると退室する。
父ファーザと母セシルが、リューの時だけ時間がかかっていたので心配していたのか、部屋から出てきたリューに駆け寄った。
「大丈夫かリュー!何があった!?」
「神父様に何か言われたの?」
二人の聞き捨てならない言葉に神父が、
「ここは教会です、領主様、お静かにお願いします」
と、注意した。
「すみません……」
両親は頭を下げるとリューを伴って外に出た。
外には洗礼の儀を終えた親達が子供と一緒に得たスキルに一喜一憂していた。
中には、家業を継げそうにないスキルに落ち込む親もいたが、子供の門出の日だ、ほとんどは祝福されていた。
領主として、親として、この光景はファーザは何度も見てきていた。
毎年、この光景を見る度に領内の未来は明るいと思うのだが、今年は神童と思われる息子のリューの門出だ、嬉しさもひとしおだった。
そんな喜ぶ両親を見て、リューは気が重かった。
神父も落胆した『器用貧乏』を伝えて、家族はがっかりしないだろうかと。
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