第2話 転生ですが何か?
「神様、大変です!」
真っ白の部屋に神様と呼ばれた初老の白いひげを蓄えた男性が声のした方向に振り向く。
「また、地球からの転生者です!それも今回は直接、神様の担当するワールドに転生したようです。いかがしましょう?」
「まただと?……どれどれ……」
神様は手元で指を動かす。
「ふむ、確かにまた、地球からだのう。先日も来た青年と同じところからか、途中言葉を噛む事でうまい具合に発動させたみたいじゃのう。偶然だが、これはいかん。地球の神に警告しておいてやろう」
のんびりな神様に助手の女性が聞き直す。
「それで、転生者はどうするのですか?」
「神界を通さず、直接下界からうちの下界へ行ってしまうというのは、稀だが前例がないわけではないからな。今回は大目にみてやるかのう。ステータスを見たところ、世界を改変するほどの特殊過ぎるスキルもないしの」
「……わかりました。それでは、そういう事で処理しておきます」
こうして、横浜竜星(極道)は、無事に異世界に転生する事になったのであった。
そこは、クレストリア王国という国の王都より馬で南東に3週間ほど行った所にある最果ての辺境、騎士爵領の領主の邸宅。
1人の男の子が産声を上げていた。
「この子の名は……、そう……、リュー、リュー・ランドマークだ!」
父親と思われる赤髪、茶色の目のすらっとした高身長ながらがっちりした男が、子に名を名付け、抱き上げた。
出産した金髪、青眼の妻も、
「いい名前ね」
と、喜ぶ。
ランドマーク家に三男が誕生した瞬間だった。
元・横浜竜星こと、リュー・ランドマークは、ただただ動揺していた。
気づくと身体はろくに動かず、目もその視界はおぼろげだった。
自分は誰かに抱かれているらしい。
相手は大男のようだ、自分が手の平に収まる程の。
話そうとしたら、思うようにいかず、「だー」とか「うー」とかしかしゃべれない。
動揺したら、泣いていた。
どうしてかわからないが、感情的に泣いてしまったのだ。
男が慌てて女性の横に寝かせた。
「リューは元気ね」
おぼろげな視界の中、
これは……、まさか自分は赤子なのか……?
と、いう考えにやっと思い至った。
仏教でいうところの輪廻転生だろうか?とにかく、自分は生まれ変わったという事のようだ。……死んだ覚えはな……、あ!あの、テンセイマホウジンか!
リュー・ランドマークは、今や前世の記憶となった自分の最後を思い出した。
少なからず、ショックだったが、死んでしまったのなら仕方がない、考えを切り替えよう。
幸い、今度の親は良い人そうだ。
元・横浜竜星は、前世の親の顔を知らない。
生まれてすぐ親に捨てられ、子供の頃はずっと、児童養護施設で育ったのだ。
なので今回の人生は前世に比べれば、まだ幸運だろうと、思えた。
リューは家族の愛を一身に浴びてすくすくと育った。
リューは父親似の赤毛と母親似の青い目を持ち、容姿は二人の血を受け継いで恵まれていた。
育つ中、初めこそ前世の記憶と赤子の自分とのギャップに苦しむ事もあったが家族の存在が大きく助けになり、4歳にもなると、前世の記憶と今の年齢とに折り合いが付く様になってきた。
家族であるランドマーク家の人々はみんな素晴らしい人達だった。
そう、家族は驚くほど善良で、慈悲深く、領民にも優しい。
貧しい者には施しをし、助け、自分達が生活に困るのを顧みないくらい、人が良すぎた。
その為、領主であるにも関わらず、その生活は質素で貧しかった。
リューはそんな優しい家族が大好きだったので、4歳で近くの森に出かけると罠を仕掛け、獣を捕らえてランドマーク家の貧しい食事事情に、一品おかずを添えて貢献するようになった。
他にも、森で食べられそうな物をみつけては、家に持って帰っていた。
リューはずっと赤子の頃から気になっている事がある。
全ての物に一々、名前が表示されているのだ。
おかげで初めて見る物も名前だけはわかって便利だったが、それ以上はわからないので、父の書斎に侵入しては本を見て調べるようになった。
字は赤子時代から物に名前が表示されているから、家族が名前を口にしたらそれと照らし合わせる事で覚えてしまっていた。
その為、ある時リューが、本を読んでいるのを発見した父親は、リューを神童ではないかと親バカをぶりを見せた。
それもそうだ、教えてもいないのに4歳で読み書きができるのである。
家族は、リューを将来、王立学園に行かせるべきではないかと真剣に話し合うのであった。
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