幕間
「ただいまぁ……うふふ……」
「何笑ってんだキメェ……」
戻ってくるなり自分の席に腰を下ろし、スマートフォンに金色の視線を注ぐ千草。その口元はアイドルのオンラインライブを眺めるオタクのように、輝いているにもかかわらず非常に気持ち悪い。しかし、その笑みは即座に凍った。
「……えっ!? どういうこと!?」
「ど、どうしたんですか千草さん!?」
隣の席の雫がそのスマホの画面を覗き込むと、何の変哲もない動画ライブラリ。しかし、蛇のような金色の瞳は愕然としたように揺れ、スマホを持つ手は禁断症状のように震え。
「嘘だ……嘘だ嘘だ嘘だッ! 競技終わったらスマホのデータも消えるの!?」
「いや……最初にそうだって説明受けてなかったかァ?」
「せめてスマホのデータくらい残してよ……折角可愛い子だなぁって思ってたのに、これじゃ台無しじゃん……!」
「……千草、ミーハー……?」
「真冬は黙ってて頼むから!!」
反射的にスマホを投げつけると、真冬はくるりと片手の指を回した。同時に空間が黒く染まり、スマホがその黒色の中に飛び込んでいく。次の瞬間、千草の背後に黒い空間が開き――鈍い音を立て、スマホが彼の後頭部に直撃した。
「だっ!? ちょ、真冬なにすんのさ!!」
「えっ、だ、大丈夫ですか千草さん!?」
「霧矢! 千草に
「だぁっ! わぁったよメンドクセェ!」
「ねえねえ社長、ジャーキー切れたぁ!」
「こんな時にそんなこと言ってんじゃないわよ!!」
「……」
「真冬、その【しばらくお待ちください】ってプラカードどっから湧いた!!」
◇
そんなこんなで30秒後――。
「はぁ、はぁ……ごめん、落ち着いた……」
赤毛を振り乱した千草と、プラカードをどこかの空間に片づけた真冬。疲れ果てたように顔を覆う雫、適当に両手を払う霧矢、そしてそんな彼らをよそに、戸棚を漁って追加のジャーキーを探す紅羽。
――と、唯は顔を上げた。デスクの上のスマートフォンを手に取り、画面を確認する仕草を見せる。一旦それをデスクに置くと、彼女はそこに両手をついた。
「早速だけど、千草。連戦よ」
「えぇ……嘘でしょ……?」
「それに霧矢、アンタも出番。それに私にも出番が回ってきてるみたいね……どうやら次が最後の戦いになるみたいよ」
「マジかよ……なら、勝つしかねえなァ」
未だ涙目の千草と、やる気満々といった様子で拳を打ちつける霧矢。男二人を眺め、唯が視線を投げるのは、安心したように息を吐く雫。それに、未だやり足りなさそうな紅羽と真冬。
「ねーねー、あたし、もしかしてもう出番ないの?」
「そうみたいね……まぁ、アンタはジャーキー食べながら待ってなさい」
「むー……ねー、真冬は悔しくないのー?」
「……別に」
「まぁ、真冬はそんな感じかぁ……っと」
諦めたように息を吐き、紅羽は癖の強いポニーテールを揺らして身を引いた。その手の中には、戸棚の最奥から引っ張り出されたジャーキー袋。最後に雫が青い長髪を揺らし、恐る恐る、口を開いた。
「あの、そのっ……」
「……何? 雫」
「……精一杯、頑張ってきて、ください……!」
気弱な少女なりの、必死の激励。それに口元をほころばせ、千草は振り返った。柔らかく頷き、口を開く。
「ありがとう――頑張ってくるよ」
その先に、とんでもない悲劇が待ち受けているとも知らずに……。
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