第193話 急に暇になっちゃったからさぁ

 今回は、七月に入って最初の水曜日のお話。

 毎週水曜日は、わたしの午後に大学の授業が入っていないのだ。

 そんなわけで、我らが妹・美琴みことちゃん(仮名)の家に、家庭教師をするために伺うのが日常なのである。


 しかし、この日は状況が少し違った。午前の授業が終わった瞬間だった。わたしのスマホに飛び込んできた、彼からのメッセージ。


 あ、彼とは、同じ大学に通い、現在、都内某所で一緒に暮らしている、渡瀬わたらせつかさくん(仮名)のこと。

 つきあい始めて、もう二年がすぎた。同棲だって、すでに一年超である。でもでも、今でも彼とはらぶらぶ(うふ♡)なのである。

 そんなわたしたちを見て、最近の親友たちは、『もう、お腹なかいっぱい』って呆れてる。


「俺、午後の授業がなくなったんだけど……、まだ、構内にいる?」


 構内にいるに決まってるではないか。終わった瞬間だぞ。そんなことを毒づくわたし。


「美琴ん、行くんだろ? 途中までついてっていい?」

「急に暇になっちゃったからさぁ」


 などと、メッセージが続く。『はいはい、ついてきたいんでしょ? 一緒にいたいんだよね? 仕方ねぇなぁ〜。えへへ♡』の意味を込めて、OKのスタンプだけ返信しておいた。


 ということで、数時間だけのデートである。ふたりだけで動くのも久しぶりなので、彼からのメッセージは、わたしにとっては嬉しい。そんなふうには見せないけどな。



 大学の、全国的に有名な門の前で待ち合わせ。『ちょっと、寄ってみたいトコがあるんだけどぉ……、つきあう?』と言えば、嬉しそうに笑ってくれる。いつも、わたしが連れ回してばかりいる気がして、心苦しいことこの上ないが……。


 さて、各駅停車(普段乗ることはない)でひと駅、下車して、歩くこと10分ちょっと。途中で、彼が好きそうなショールームを地図上に見つけたので、そちらを先に覗きに行った。案の定、彼がハマった! そこが、『ホビーセンターカトー東京』。鉄道模型メーカーのショールームである。店舗一階に常設のレイアウトはすごかった。でも彼が、瞳をキラッキラさせて見入ってたのは、店舗前に展示されてた旧式車両だった。


 その後向かったのが、本来の目的地であった、『トキワ荘マンガミュージアム』である。たまたま検索しててひっかかったのだ。

 ここは、知る人ぞ知る、大御所漫画家たちが一時期活躍した場所なのである。15日までだという『特別展』をふたりで見てきた。



 美琴ちゃんの授業時間に間に合わせるために、時間的にはタイトなデートだったけど、わたしは楽しかった。彼は、どうだったのかな?



 これは、わたしと親友みあちゃんと、そのほか、少ない友だちを巻き込んだ、掛け合い語録。


 捻りもオチもないけど、彼女みあちゃんがいなかったら、今のわたしはいなかったと思うし……。


 二時間の授業の後、高校時代の最寄駅に到着。改札の前で、彼が待っててくれた。


「待ったんじゃない? ごめん」

「俺が勝手についてきたんだから」


 なかなかに殊勝である。

 まぁ、彼のそういうトコがいいんだけど。


 ふたりで、ちょっと遅めの夕飯を食べて、ふたりの家に無事辿りついた。

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