第171話 バカなの?

 先週の木曜日、一緒に夕飯を食べている時だった。現在、都内某所で一緒に暮らしている彼が、『なんか風邪ひいたっぽい!』と呟いた。


「食欲もないし……」←しっかり一人前(いつもよりは少ない)を食べたあとで。

「熱っぽいし……」←熱っぽいという自分の手で額を触って判るんか?


 という彼の自己分析に、内心毒づいたけれど、そこは言わないでおいた。



 それよりも、風邪薬を調達してこないと……。都内で一緒に住むようになって、まだこういう事態(風邪をひく……とか?)に陥ったことがなかったから、常備薬なんてあるはずがない。さいわい、この時間、近所のドラッグストアはまだやってる。


「ちょっと、風邪薬、買ってくるから、先に休んでろ」


 そう言ったわたしに、彼が……。


「ひな(仮名)が心配だから、一緒に行く」


 最寄駅出口のすぐ隣にあるドラッグストアである。徒歩3分である。そして、彼は過保護である。心配してくれるのは嬉しいが、今は、その心配の方向が間違っている。

 わたしが、手を腰にあて前屈みで、頬をピクリとさせ眉間に皺を寄せて、『つかさくん(仮名)、バカなの?』と言っちゃったとしても問題はないはずだ。

 彼は、項垂れて自分の部屋に戻っていった。



 まぁ、このあとがたいへんだった。

 買ってきた風邪薬を服用してから寝たはずなのに、深夜になって彼の熱はさらに上がり、火照ほてった体の熱さに、わたしが眠れず(風邪ひきにくっついて寝るって、どうなのよ……と、土曜日に来た美琴みことちゃん(仮名)に叱られた)に目を覚ます。


 相当、汗をかいてたので着替えさせて、水分摂らせたあとで無理やり寝かしつけた。


 こんな時、男の子って弱気になるよなぁ……。寝ついた彼を見て、そう思った。



 これは、わたしと親友みあちゃんと、そのほか、少ない友だちを巻き込んだ、掛け合い語録。


 捻りもオチもないけど、彼女みあちゃんがいなかったら、今のわたしはいなかったと思うし……。


 明けて金曜日、結局、熱が下がりきらなかったので、大学は休ませた。無理に通学して、教室がアウトブレイクでパンデミックとか洒落にならん!


 土曜日(共通テストでお休み)に熱が下がらなかったら、病院だ! とも言っておいた。

 まぁ、無事に熱も下がり、今週は何事もなかったかのように通学している。


 先週の騒動はなんだったのだろうか……。


「もぉ、ちゅぅ♡してくれてたら感染うつってたかもしれないのに」


 そう、揶揄からかっておいた。でも、今のところ、感染もらった予兆はない。

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