第131話 会わせろってきかなくて……

 先週の水曜日、わたしは午後の予定がなかった。たぶん、今年は、このスケジュールのままでいけるだろう。

 ということで、以前から打診されていた、高校来の友人の妹、美琴みことちゃん(仮名)の家庭教師を受けることにしたのです。

 大学終わって、地元に凱旋?


 美琴ちゃんのご両親と話し合い。契約書確認、そして締結。毎度のことながら、しっかりしてくださる。わたしにとってはありがたい限りである。

 時々、『自分の価値を認識しなさい!』なんて叱ってくれたのも、今では懐かしい。当時は煙たく思ったこともあったけれど、わたしのことを考えてくれた発言だったと思うと、今にして思えばとても嬉しい。


 そして、今週の水曜日。つまりは今日、これから向かうのです。



 でも、今回のお話は、母の日に、彼と一緒に、彼の実家を訪ねた時のことである。

 彼は、電話だけで済ますつもり(わたしに言われたから……)だったらしいので、前の週には、プレゼントも用意して、逃げだせないように、外堀はしっかりと埋めておいた。


 ……で、当日。


 いつものように、最寄駅まで迎えに来てくださった、お母さま。ワクワクソワソワしてるのが見てとれた。

 まぁ、実の息子が、母の日に贈り物をするのだ。母親としては嬉しくないわけはないか……。そう思っていたわたしだったけど、お母さまのほうが一枚も二枚も上手うわてだった。それこそ、彼にはまったくの予想外だったみたい。

 暫く、固まったままだった。『呆けてないで紹介しろよ!』と、内心で悪態をつくわたし。


 わたしたちより先着して、目の前にいらしたのは、彼のお祖母ばあさま。イヤ、お祖母さま呼びは失礼か。とてもお若く見えるし、お綺麗だし……。

 お母さまが、自分の息子に『しっかり紹介しろ!』と一喝する。


「ひなちゃん(仮名)、ごめんね。母の日にわざわざ来てくれるって言ったら、わたしにも会わせろってきかなくて……。お母さん、この子がひなちゃん。つかさ(仮名)の彼女。もうね、いい子だしすごい子なのよ。……云々。……司にはもったいないくらい!」


 お母さまの、わたしを褒めてくださる言葉が止まらない。『司くん、なんとかしてくれ』で、彼が割って入って漸く収まった。恥ずかしい限りである。

 お祖母さまも、いきなりでは困ってしまうのではなかろうか……?


 その後、改めて、挨拶をした。

 そうしたら、お祖母さまがポツリ。


「本当にできた子だね。司より下なのに……」



 これは、わたしと親友みあちゃんと、そのほか、少ない友だちを巻き込んだ、掛け合い語録。


 捻りもオチもないけど、彼女みあちゃんがいなかったら、今のわたしはいなかったと思うし……。


 帰りの電車で、ふたりして『疲れたよ、今日は』って、思わず寄り添ってしまった。

 こういう事態には、彼には、もっとしっかりしてもらいたいものだ……。

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