第99話 星好きが増えたらいいな

 昨日の夜は、素敵な天体ショーを見ることができた。

 今回のお話は、その顛末である。こんなにも大袈裟なモノになるとは、わたしは思っていなかった。



 ことの始まりは、登校中に親友の美亜みあちゃん(仮名)から振られた話題だった。


「今日、月食が見られるんだって!」


 そのニュースは、今朝のテレビの天気予報で言ってたね。前回の月食、わたしの住むこの地方では、その時間だけ曇ってしまったので、当然、月が欠ける様は見れてないのである。

 でも、今回は天気も良さそうだ。念願が叶うかもしれない……。元々、天文好き? なわたしは、この宇宙の神秘をどうしても見たい!


 自分の果てしない欲望が、悪知恵を搾りだした。


「校舎の屋上で見よう!」


 そう決断したわたしの行動は早かった。イヤ、わたしの頭の中を悪知恵が駆け巡った。それにつきあわされたのは、いつもの手下たちだった。みんな、イヤそうな顔もせず、良くつきあってくれてると思う。


 まず、わたしが『皆既月食観測会』の起案文書を作成。それを2部持たせて、手下のひとり(当然、わたしの彼、つかさくん(仮名)がその役を押しつけられ)に、担任の下へと走らせた。

 次に、屋上の『使用許可申請書』を作成。教務課に向かわせる。こちらは、彼の友人、会津あいづくん(仮名)が走らされた。担任の決裁印が押された文書を持つ、わたしの彼と合流して、教務課の先生に事情の説明をさせる。

 さらに、『参加者募集』のチラシを用意。ひとり取り残された男子の友人、烏丸からすまくん(仮名)には、枚数を指定してコピーをお願いする。校内に掲示するには、『掲示許可印』が必要なので、わたしからの連絡を待て! と言って、まずは走らせた。

 同時に、女子の友人、真琴まことちゃん(仮名)と莉緒りおちゃん(仮名)には、掲示場所の確保を依頼。

 それぞれの分担を割り振って、わたしと美亜ちゃんが動きだす。


 教務課前で、彼と会津くんに合流。彼から文書の1部を受け取り、わたしと美亜ちゃんで、教務課の一番偉い先生のところに向かう。その先生の決裁印をゲット!

 忙しい中、安全にだけは気をつけてほしいと言われるが、笑顔で対応してくれた。感謝である。

 教務課の決裁印を得たことで、会津くんに持たせていた、『使用許可申請書』も許可が降りた。わたしからの次の指示を待て! と彼らに言い置いて、次の場所に急ぐ。

 次は、教頭先生だ。その実、ここが最大の難関である。いつも、わたしの文書の穴を突いてくるのである。教頭先生のお立場も理解できる。素人が出すイベントの提案である。万が一の可能性も考慮しておかなければいけないのだろう。まぁ、お陰で、わたしのビジネス文書? のレベルは少しだけど上がった気がする。感謝である。

 拍子抜けするくらいに、教頭先生の壁を乗り越えたわたしと美亜ちゃん。ラスボスとの対峙である。いくつか条件を出された(ラスボス、美亜ちゃんに聞くんだよ)が、そのすべては想定内だった。最後には、『また、楽しそうなことを……』と笑っていた。感謝である。


 ラスボスとの戦闘の後、みんなが教務課前に再集合した。

 簡単に作ってコピーしたチラシに、『掲示許可印』をもらってそれぞれ散開。第一段階の任務完了となった。

 良く、昼休みだけで終わったよね……。



 これは、わたしと親友みあちゃんと、そのほか、少ない友だちを巻き込んだ、掛け合い語録。


 捻りもオチもないけど、彼女みあちゃんがいなかったら、今のわたしはいなかったと思うし……。


 結果は、意外なほどに大事おおごとになってしまった。お昼休みの終わりくらいに掲示したチラシを見つけてくれた参加者が、中等部も併せて53人。

 それに、高等部の理科(天文好き)の先生が、天体望遠鏡を持ち込んで(それも3台も)参戦。『残業代でませんよ』というわたしに、『大手を振って、ここで見られるんだからいいよ』と。3台の天体望遠鏡も、『星好きが増えたらいいな』って、生徒たちにも開放してくれた。

 全員で観測するために、先生の最新鋭天体望遠鏡とスマホやタブレットとBluetoothで接続したけど、『惑星食』まで見れたのはラッキーだった。


 それに、一時間くらい経った頃。数名の先生たちが屋上に上がってきた。そろそろ解散の合図かと思ったけど、様子が違った。

 なんと、暖かい飲み物を持ってきてくれたのだった。先生たちの自腹だそうだ。屋上に歓声が広がった。みんなで、お礼を言って暖まった。

 その先生たちも、そのまま下に戻らず、紅くなった月を見上げていたけど……。

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