第100話 僕に構わず、先に行け!

 ついに到達、第100話。

 こんなしょーもない連載が、ここまでよく続いたと思う。まぁ、個性豊かな友人たちには感謝だな!



 という記念の回でもあるが、通常運行に変わりはない。


 天体ショーの翌日のことである。朝、登校時にトラブルには見舞われたが、学校に到着したら、それどころではなかった。

 当日、参加できなかった子たち、特に中等部のがわたしたちの教室になだれ込んできたのだ。

 前日の午後に掲示し、この時点では、まだ回収できていなかったチラシを見たんだそうだ。ほかには、参加できたクラスメイトから聞いたという子。

 この時のわたしは、朝のことを引きずっていたので、事情の説明は、親友の美亜みあちゃん(仮名)たちが請け負ってくれた。そして、わたしは別行動だ。


 美亜ちゃんの采配で、男子の友人、三人が、わたしの護衛についた。校舎内で取り囲まれた時のために……だそうだ。

 案の定、まずは、会津あいづくん(仮名)が説明のために切り離され、烏丸からすまくん(仮名)も、『僕に構わず、先に行け!』と離脱。

 『ふたりとも、君たちの死は無駄にしない!』という、ワザとらしい台詞に敬礼を加えて、置き去りにした。これも想定内のことだから仕方がない。説明の内容も、妥協案という逃げ道も用意しておいたから、ふたりが無駄な戦死をすることはないだろう。寧ろ、今度は彼らが英雄ヒーローになる筋書きを用意しておいたのだ。がんばってくれたまえ。


 わたしと、わたしの彼、渡瀬わたらせつかさくん(仮名)がふたりで向かっていたのは、教務課室だった。教務課の先生たちに、無理を言ったことの謝罪をし、その無理を通してくれたことのお礼を言うためだ。ふたりで頭を下げてきた。

 『どこで、持ち回りなんて覚えたんだい?』と問いかけられたけど、『またお願いします』って笑って誤魔化しておいた。


 次が教員室。まずは担任。そして、差し入れしてくれた先生たちが誰だったのかわからなかったので、広く全員に聞こえるようにお礼を言った。

 その後で、当日、大活躍だった先生を探して教員室中を見渡す。教員室の奥のほうに、その姿を見つけた。司くんと、ふたりして近づいていく。


「先生、昨日はいろいろとありがとうございました。……でも、ホントにこんなのでいいんですか?」


 などと言いながら、先生の前に差し出したのは……、普通のお弁当。

 天体ショーの当日、月食が始まる前に、参加者全員の前で解説をしてくれたり、持ち込んだ天体望遠鏡を、みんなに開放してくれたり、いろいろとお世話になったのだ。残業代を出せるわけもなかったので、その代わりに……と言ったら、お弁当これだった。


「女子生徒から、手作りのお弁当をいただけるって、やっぱり嬉しいじゃない? 教師冥利に尽きるって言うか。このあいだ会津あいづが自慢してたの聞いてさ、でも、立場上、僕からは言えないでしょ? それに、浅葱あさぎ(仮名)は、時々、◯◯先生(わたしたちの担任ね)とお昼食べてるじゃない? ◯◯先生、ベタ褒めだったからね。そりゃあ、気になるでしょ? ……云々(まだ、暫く続きます)」


 先生、ツッコミどころが満載です。と、指摘することもできず、ただただ唖然とするわたし。

 この理科の先生、わたしの印象では、これほど饒舌ではなかったはず。司くんも、同じ意見のようで、わたしと思わず見つめあってしまった。

 そんなわたしたちに……。


「渡瀬、悪いなぁ。浅葱にこんなこと(渡したお弁当を高々と頭上に持ち上げ……)してもらったら、先生と噂になっちゃうかもなぁ」

「なりませんっ!」

「えぇっ! そうかぁ?」

「そのために、渡瀬くん、連れてきてるんですからねっ!」


 そんな反論をして、渡瀬くんの腕に抱きつくわたし。教員室の中だって言うのにね。

 まぁ、この先生も、本気で言ってるわけではないのだ。けっこう信用されてるわたしたちなので、教員室の雰囲気を和ませるのには、ちょうどよかったみたいだ。

 でも、いちおう、わたしが悔しかったので。


「先生の綺麗でかわいい大好きな奥さまに報告しちゃいますよ! 先生から不倫しようって言われたって。あぁ……、きっと、夫婦喧嘩から離婚の危機……へと」

「ちょっと? 本気で言ってないよな?」

「さぁ? どうでしょう」



 これは、わたしと親友みあちゃんと、そのほか、少ない友だちを巻き込んだ、掛け合い語録。


 捻りもオチもないけど、彼女みあちゃんがいなかったら、今のわたしはいなかったと思うし……。


 教員室での、バカみたいな言い合いの後、漸く学園長ラスボスもとへと辿りついた。

 学園長室に入った途端、『不倫はいかんぞ!』って言われた。聞こえてたのかよ?

 その後、勧められるまま、ふたりで並んでソファに座る。目の前にはラスボス。司くんは緊張しているようだ。そんな司くんに、一瞬だけ視線を向けてから、わたしに向き直った。


「浅葱くん? まだ持ってる企画があるのか?」


 そんな……、幾つも企画なんて考えてるわけ……あったりする。

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