第96話 その反応はダメだろ?

 今回は、9月の下旬の火曜日に始まった騒動のお話。



 その日、わたしは、朝から、目に違和感を感じていた。なんとなく、瞼の裏側がゴロゴロしていたのだ。でも、感覚としては『目に埃でも入っちゃったかな?』くらいのものだった。

 お昼休みに、親友の美亜みあちゃん(仮名)に見てもらった時の、彼女の所見も、『腫れてる気がする』くらいだったし……。


 しかし、その時の美亜ちゃんとのやりとりで、まずは、ひと波乱。『見て〜』というわたしの顎を『くいっ』と持ち上げる美亜ちゃん。その力で上を向かせられるわたし。そこに、美亜ちゃんの顔が次第に近づいてきて……、ふたりで見つめ合う。

 周りにいたクラスの女子たちから漏れるため息、そして、『百合だ! 薔薇だ!』という囁き声。薔薇……? は違うだろ?


 親友のひとり、っさい仲間の莉緒りおちゃん(仮名)なんて、『眼福、眼福!』などと、ひとりで若さに欠けそうな呟きを零してるし……。

 男子の親友、会津あいづくん(仮名)は、『幼女がイケメンに襲われてるっ!』とか言ってるし……。もちろん、わたしからのツッコミと、美亜ちゃんからの手刀が同時に炸裂する。

 みんな、飽きないよね?


 その日の午後、友人たちに教えてもらった、学校の最寄駅近くの眼科に駆け込んだ。

 医者せんせい曰く、『麦粒腫ばくりゅうしゅ(要は、ものもらい)ってわかる? 擦ったりしないでね、擦った手を媒介して移るよ〜』とか言われながら、目薬を処方してもらった。



 そして、次の日。またしても学校でひと波乱である。前日のゴロゴロ感に加えて、瞬きすると痛い……のである。憂鬱な気分、集中できない日常、普段と違う視覚による疲労。なにひとつ、いいことがない。

 そんな、悶々としているわたしに、声をかけてきた人がいた。おつきあいしている彼の声に振り向いたわたしは、さぞ、仏頂面していたに違いない。美亜ちゃんが、『顔、顔っ!』って、小声で忠告してくれたくらいだ。


 笑顔を取り繕う間もないまま、渡瀬わたらせくん(仮名)を上目遣いに見上げるわたし。

 わたしの視線の先の彼が、自分の左胸に手を当てているのが見えた。


「具合でも悪いの?」

「いや……」

「え? でも、顔、あかいし……。熱でもある?」

「ぐはっ!」


 心配になって彼の手を取ると、彼が思いきり息を吐いた。普段では見たことのない彼の様子に、ひとり慌てるわたし。オロオロするわたしを見て、友人たちは、揃ってため息をいている。



 これは、わたしと親友みあちゃんと、そのほか、少ない友だちを巻き込んだ、掛け合い語録。


 捻りもオチもないけど、彼女みあちゃんがいなかったら、今のわたしはいなかったと思うし……。


「渡瀬? いくら、ひな(仮名)の眼鏡姿が初めてだったからって、その反応はダメだろ?」

「ひなも、眼鏡越しの上目遣いは、つかさ(渡瀬くんの下の名前ね)には猛毒なんだから、ちょっとは考えてやれよ?」


 昨日に引き続き、美亜ちゃんと会津くんから揶揄からかわれた。

 わけわかんないよ! と言ったわたしに、親友たちが揃って、『惚気のろけんじゃねぇ』って、ツッコんできた。

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