第82話 一段と不機嫌な顔してるねぇ〜

 今週の月曜日。巷は、お盆休み終盤か? と騒いでいるけど、わたしたち受験生にとっては、まぁ、あまり関係がない。

 この日、わたしが受講する授業は午前中だけ。ここに通う四人でお昼ご飯を食べ、わたし以外の三人は午後にも授業がある。わたしは、そんな三人が終わるのを、いつもひとり、自習室で待つのだ。



 あの一件第78話以来、友人の莉緒りおちゃん(仮名)が、『ひなちゃん(仮名)は、できるだけ人の中にいるようにしなきゃダメだよ』と言う。心配してくれてるんだろうけど……、はっきり言って息苦しい。

 わたしにとって、人の中にいる……とは、人の視線を浴びる……ということと変わらないからだ。

 まぁ、みんなに心配をかけるのは本意ではないので、わたしが我慢はするのは仕方がない。


 三人の受けていた授業が終わり、揃って自習室に現れた。


「ひなちゃん、お待たせぇっ! あぁ……今日は一段と不機嫌な顔してるねぇ〜。でも、そんな顔もかわいいんだけどねぇ〜? 渡瀬わたらせくん(仮名)?」


 莉緒ちゃんが、開口一番、わたしの元に辿りつき、わたしの膨らんだ頬をそっと摘む。最近の恒例行事となったわたしたちの挨拶じゃれあいに、自習室の視線は、当然、こちらに向けられる。



 これは、わたしと親友みあちゃんと、そのほか、少ない友だちを巻き込んだ、掛け合い語録。


 捻りもオチもないけど、彼女みあちゃんがいなかったら、今のわたしはいなかったと思うし……。


「渡瀬くん? たまには、ひなちゃんの気分転換になりそうなこと……してあげなよぉ? 週の半分も、渡瀬くんのために、お弁当作ってきてくれてんだからね」

「それは、わたしが好きでやってることだから……」

「もぉ、これだから、ひなちゃんは〜。かわいいなぁ〜。渡瀬くんには、ここぞとばかりに、盛大に『恩』を売っときゃいいんだよ!」


 莉緒ちゃんの勢いに、渡瀬くんはタジタジで……。もうひとりの友人、烏丸からすまくん(仮名)は、ここが自習室だってことも忘れて、大笑いして頷いていた。

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