第83話 盛大に『恩』を売っときゃいいんだよ!

『……渡瀬わたらせくん(仮名)には、ここぞとばかりに、盛大に『恩』を売っときゃいいんだよ!』


 こんなことを、友人の莉緒りおちゃん(仮名)に吹き込まれた、渡瀬くん。金曜日のお昼に、わたしを誘ってくれた。

 以前から、わたしがお願いしてたことの約束を取り付けてくれたようだった。



「ひな(仮名)? 金曜日、夏期講習終わったら、うちに来るか? 父さんが休みで、CWだっけ? 見せてくれるって言ってるんだけど?」

「ホントっ? 行く、行く」 


 渡瀬くんのお父さまとは、彼のお父さまということのほかに、同じ趣味を持つ者として仲良くさせていただいているのだ。

 今年の冬(受験中なのにね)に、この趣味での、上級クラスの免許をとりたいと思ってるわたしが、彼のお父さまに無理を言ったのだった。『本物の電信(モールス信号)の技術を見たい!』と。快諾してくださったお父さまには感謝だ。

 今の試験には、実際の電信の技術は必要ないんだけど、やっぱり、やるからには覚えたい。まぁ、わたしのわがままだ。


 夏期講習が終わり、みんなとのいつもの時間も過ぎ、渡瀬くんといつもの駅前ロータリーに向かう。いつもは、わたしから彼の腕に取りついていくけれど、今日は、彼から手を繋いでくれた。未だに照れようは変わらないけど、ちょっとずつ進めているようで、わたしは嬉しい。


 わたしと手を繋ぐ自分の息子を見つけて、彼のお母さまがにやりと笑う。それに気づいた渡瀬くんが手を放そうとしたので、わたしが彼の手を握り返した。お母さま、さらに笑っていた。


 いつものように、渡瀬家に到着。お父さまは玄関前で迎えてくれた。大事にされてるって実感してしまう。

 リビングでお茶をいただいた後、お父さまの書斎? にお邪魔した。渡瀬くんもついてきた。

 わたしが、『興味あるの?』って聞いたら、『ない!』って言う。首を捻るわたしにお父さまが言う。


つかさ(渡瀬くんの下の名前ね)は、ひなちゃんが心配なんだよ。僕が手を出すんじゃないか……って。親として信用されてないよね〜。そう思わない? ひなちゃん?」


 お父さまが冗談で言った言葉に、渡瀬くんの頬が紅くなる。ホントにそんなこと考えてたのかよ。予定でも、義理のお父さまだよ。そんなこと起こらないよ。『わたしは、司くんのだよ!』って言ったら、いっそう、顔を紅くしていた。お父さまと揃って爆笑……である。


 そんな騒動の後、実際の機材を見せてもらった。送信の実演もしてもらった。発信されないからやってごらん……と、操作もさせてもらった。これは、覚えたらおもしろいかも……。

 楽しい時間だった。



 これは、わたしと親友みあちゃんと、そのほか、少ない友だちを巻き込んだ、掛け合い語録。


 捻りもオチもないけど、彼女みあちゃんがいなかったら、今のわたしはいなかったと思うし……。


「ひなちゃん、日曜日、暇? 僕とデートしようか?」

「父さんっ!」

「あなたっ、いくらなんでも誘い方ってもんがあるでしょっ!」


 渡瀬くんのお父さま、渡瀬くんとお母さまから、ふたり揃って一斉に口撃された。事情のわからないわたしは、首を傾げるしかできなかった。

 詳細は、次のお話……かな?

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