第60話 かわいいよな?

 昨日、金曜日のお昼ご飯時である。

 友人の美亜みあちゃん(仮名)が、突然、立ち上がり、拳を握りしめ、力強く言い切った。


「ここの中学の制服、着てみたい!」


 わたしを含め、友人たちは呆然である。



 たぶん、ことの発端は朝の通学時……だと思う。中等部の女の子たちが、送迎バスを待って並んでいた。その様子を見つめていた美亜ちゃん。


「うちの学校の夏服、かわいいよな?」

「あれ、中等部だよ? もう、着る機会なんてないじゃん」


 わたしたちが通っていた中学校は、極々普通の平凡な制服だったのだ。それと比べたら、さすが私立! なのである。特に夏服のかわいさったら、もぉ。


「高等部のだってかわいいと思うけど?」


 わたしの言葉に、美亜ちゃんがぶつぶつとなにかを呟いていた。わたしは、この時気づくべきだったのだ。自分の身にも降りかかるだろう災難に……。



 これは、わたしと親友みあちゃんと、そのほか、少ない友だちを巻き込んだ、掛け合い語録。


 捻りもオチもないけど、彼女みあちゃんがいなかったら、今のわたしはいなかったと思うし……。


 この後の美亜ちゃんの行動は早かった。ふたりの友人、真琴まことちゃん(仮名)と莉緒りおちゃん(仮名)に、貸してくれるよう手配し、担任をうまく丸め込んで、一日だけの許可をもぎ取ってきた。行動力、すげぇなぁ。


「ところで、どして、莉緒ちゃんのもいるのさ?」


 美亜ちゃんは、わたしに有無を言わせなかった。


「ひな(仮名)の分に決まってんだろ?」

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