内定監獄の囚人101ー102

ちびまるフォイ

監獄の中と外

「囚人番号101番!! 面会だ!!」


看守に促されて面会室へと向かった。

ガラスを隔てた向こう側には心配そうな顔をした両親。


「たかし、お前はまだ内定出ないのかい?」


「無茶言うなよ母さん。俺だって頑張ってるんだ」


「理想が高いんじゃないのかい?

 別にどこに受かってもこの内定監獄からは出られるんだろう?」


「そうだけど……。それに、別に選り好みしているわけじゃないよ」


「お母さんは心配だよ。あんたがいつまでもこの内定監獄から出られないんじゃないかって……」


「……わかってるよ」



「囚人番号101! 時間だ!」


面会が終わってまた自分の独房へと戻っていった。

頭にはまだ不安そうな両親の顔が浮かぶ。


ここは内定監獄。独房には求人雑誌が大量に置かれている。

就職できれば脱出できるが、できなければ一生檻の中。


「くそう……早く出たい……」


毎日息をして飯を食べて寝るだけの日々。

この独房生活から脱するためには就職しかない。


「囚人番号101、予約していた前科者面談だ」


「はい!」


監獄内で唯一外界との窓口になっている面談室。

そこにはすでに囚人たちのプロフィールを手にした面接官が待っていた。


「私はここで服役しているときも、ただダラダラしているわけではなく

 壁や床のヒビを数えたりして毎日の生活を意味を持って生きてました!

 このような前向きな精神はきっと役に立ちます!」


「なるほどねぇ……」


面接官は手元の書類を見た。


「あ、でもこの犯罪をしてたんだね。そんな人はちょっと危ないから無理だ」


「いやいや! 話を聞いてください! それは冤罪で……!」


「受かりたい囚人はみなそう言うんだよ。はい次の囚人~~」


「待ってください! 話を! せめて話をーー」




「囚人番号101! 早く出ろ!!」


看守に連れ出されるようにしてまた独房へと逆戻り。

やることといえば、内定監獄にある教本を読むくらいしかない。

読みすぎて文章を一字一句間違わずに暗証できる。


「ちくしょう……経歴だけで判断しやがって……。

 どいつもこいつも、なんで俺をちゃんと見てくれないんだ」


大きめの独り言に向かいの房にいる102番囚人が反応した。


「よお、囚人101。まーーたダメだったのかい?」


「ああそうだよ! 文句あるか!!

 誰よりもこの内定監獄で勉強して、刑務作業も真面目なのに評価すらされない!」


「当たり前じゃん」


「あ、あたりまえ……!?」


「初戦面接なんて、お見合いと同じ。その場のフィーリングなんだよ。

 ウマが合えば決まるし、合わなきゃ決まらない」


「そんなわけないだろ! 内定監獄の囚人情報は面接官にも渡っているはずだ!」


「ありゃ単に"これから見る人"を知っておいて、緊張しないようにっていう配慮さ。

 別にあの資料に何が書かれてても見ちゃいない」


「まるでなんでも知ってるような口ぶりだな……。

 さっきから余裕ぶってるけど、お前こそどうなんだよ」


「俺はいいのさ。こっちのが性に合っている」


「ハン。自分だって内定して監獄を出れてないじゃないか。強がんなよ。見てろ、今にバチッと内定してこの監獄から出てやるからな!」


この日をきっかけにますます自分の研鑽にあけくれた。

時間が許す限り筋トレで体を作りまくり、本を飲むように覚えて知識を蓄える。


冤罪でこの内定監獄に収監されこそしたものの、

それを超えるほど魅力的な人間になろうと思った。


そして、運命を決める監獄面談の日。



「ふむ、君は〇〇という犯罪でこの内定監獄に収監されたんだね」


面接官はプロフィールを見て言葉をかけた。


これまでの自分なら冤罪であることを説明しようと必死になっていた。

でもすでに「前科者」という先入観を持つ面接官には逆効果。

ただの言い訳にしか聞こえなくなってしまう。


内定監獄の教本を隅まで読んだ学んだ今は違う。


「たしかに〇〇という犯罪はしましたが、

 その際にさまざまな計略や努力を積み重ねてきました。

 この経験はきっと役に立つでしょう!!」


相手が決めつけた弱点のレッテルを長所アピールのだしにつかった。

この手法がハマったのか終始監獄面接はいい空気で進んだ。


「決めたよ。君のように前向きで努力家で従順な人はうちに来るべきだ!!」


「本当ですか!! やったー!!!」


ついに内定監獄からの脱出が決まった。

出る前には向かいの房にいる囚人へ勝ち誇ってやった。


「お前がこの内定監獄でダラダラ過ごしている間にも、

 俺は自分を高めて外に出ることができたぞ。どうだまいったか」


「おそれいったよ。自分の冤罪をも認めて自分を偽ったことには経緯を払うね」


「檻の中で負け惜しみはかっこ悪いな。それじゃ自由になってくる」


単調で退屈な毎日からの解放。

囚人から社会人へと華麗なるジョブチェンジ。

これから始まる自由に心が踊った。





その後、内定監獄にはまた新しく人が収監された。


「囚人番号201番! 自分の独房に入るんだ!!」


「はい……」


新入りがどんなやつか確かめようと囚人102は覗き込む。

見知った顔に驚いてしまった。


「お前、囚人番号101じゃないか。外に出たんじゃないのか」


「外で人を殺してしまって、内定服役になったんだよ……」


「殺しだって? なぜそんなことを?」


旧101番の囚人は憔悴しきった顔で答えた。




「毎日怒鳴られ、いじめられ、朝早くから夜遅くまで働く……。

 あんな生活を続けるなら、監獄での生活がどれだけマシか……」

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