Epilogue

【2月2日】


 某所。オフィスの一室。

 蛍光灯は切ったまま、かすかに入る陽の光だけが部屋を照らしていた。

 部屋にいた背広を着た強面の男の元に、別の男が現れた。

 強面の男が言った。


「退院おめでとう、よく戻ってきたな」


「どうも……」


「これで坂東丈は死んだことになった」


 そう、言われた男。──近藤達や一部に『坂東丈』と呼ばれた男は頭を下げる。


「すみません、私のミスでここまで話が大きくなってしまった」


「まぁ、起こったことは仕方ない。エージェントである君が死ななくてよかった。まさか、病院に乗り込んでまで狙われるとは思わなかったが」


 ──恐らく、単純に本人の安全よりも、死体から近藤達に公安の存在が割られるのを懸念したのだろう。


「エレベーターから逃げた男の行方はこちらで追っている。他に問題は無いな?」


「大丈夫です。私が公安ゼロであることは知られていません。……近藤達のデータは回収したのですか?」


「ああ。中には狙い通り、拳銃密輸組織との接点が見つかった。近藤達へ銃を提供したのも奴らだろう。何にせよ、これでお前の役目は終わった。」


「公表の可能性は?」


「このことに関しては無いだろう。すでに銃が使われたことは報道をされている。組織を刺激するだけだ」


「……なぜ今回の事件を止めなかったのです? データの確保のためですか?」


「それもあるが……私的な理由だ」


 男は続ける。


「例の情報流出。去年、堂垣若が近藤まで辿りつけたのは、俺が裏で彼らのサポートをしたからだ」


 坂東は困惑の色を見せた。


「なんですって……」


「本人らはそのことに気づいていないがね」


「なら、私が『ジャック』という言葉を残したという証言は……」


「あれはいい判断だった。ジャックが関わっていると知った昼晴署の刑事は、忠実にそれを堂垣へ伝えてくれたな。──あれも運が良かったというべきか」


「いえ……その、言った憶えがなかったもので……」


「そうか。まぁ、ひどい事故と怪我だったしな。無理もない」


「……あなたはあの青年をどうするつもりで?」


「事実、あの事態に即座に対応できたのは、あの男だった。我々が影であるならば、光がいなければ成り立たん」


「その“光”が……堂垣若……」


「去年、近藤を庇って証拠を握り潰した埼玉県本部長や、それに関わった連中も、今回の件で“全て”を世間に明かさねばならんだろう。灰須署にも奴の仲間がいたしな。そのために今回の騒動が必要だった……奴への報いもな」


「……それがあなたの目的だったのですか?」


 坂東の問いに、男は神妙な顔つきで答えた。

 

「奴のせいで──あの事件の被害者の情報も世に知れ渡った。情報インテリジェンスを扱う機関の一員として、それが不快に思っただけに過ぎん」


 坂東は、その答えに沈黙で返した。


「……一度漏れ出たものは、誰も止められないんだ」


 男はそう言い坂東の肩を叩くと、部屋の扉へ足を進める。


「君の次の捜査は、いずれ決まる。その時まで準備しておけ」


「……はい、了解です」

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アウトローズ:12月24日にカップルを別れさせるヤツら 祈更ドップ @DopToTheFuture

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