夢から醒めたくない

たけ

第1話


 別に路銀の心配をしているわけではないが、ふと思い立って実行した旅行が、こんなにも長引くとは、正直思っていなかった。

私は向かいの席で、無邪気に車窓の外を眺めている少女の横顔を見つめた。

白い肌に蒼く澄んだ瞳、すらっとした鼻に金髪の巻き毛。フランス人形がそのまま大きくなったような容姿をしている。娘が生きていたならば、ちょうどこれくらいの年頃だろう。

この年になって、若い異性と旅行をしているという事実にちょっとした動揺を覚えているのが、自分でも少し意外だった。それは何も彼女が異国の女性であるからという理由だけではないだろう。

 旅行先に北欧を選んだのは、まったくの気まぐれだったが、良い選択だったと思う。

 私が彼女と出会ったのは、ベルリンの郊外でだった。駅へ向かう途中の私に彼女が駅への道を尋たのがきっかけで、そのまま同行することになったのだ。

 彼女が乗ると言ったのは、デンマークへ向かう列車だった。私もはっきりとした目的地を決めない旅行だったので、そのまま彼女とともにデンマークへ行ってみることにした。



   ************



 気がついて、ベンチから身を起こすと、すでに日が暮れていた。

薄暗い公園には、私の他に残っているような人間はいない。時計を見る。まだ少し早い。妻も娘も起きている。

私は砂場にしゃがみ込み、おそらく子どもが忘れていったのであろうプラスチックのスコップで穴を掘りはじめた。その行為に意味はない。

 以前、囚人にひたすら穴を掘らせて、それをまた埋め直すのを繰り返させる拷問があるという話を聞いたが、私にはそれがどうして拷問になるのか分からない。

穴を掘って埋める行為を繰り返したが、少しも苦ではなかった。むしろ、何も考えずに没頭できたから、随分と有意義に時間を使うことが出来たという気がした。

 時間が来たので、私は公園を後にした。


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