第17話 落ちてるのか飛んでるのか善なのか悪なのか
「紅炎」
手綱から手を放したカイが、ナイフを抜き取る。
お馴染みの炎で強化されたそれは、カイの手を離れ、串刺しになったまた、じたばたともがいていたGへと命中した。
キキィ
物悲しい泣き声を上げて煙と化すG。
そのまま虎徹で駆け、群れの近くまで寄ったカイは、鞍に片手をついて飛び降りた。
槍を引き抜くと共に、ざっと土ぼこりを上げて体を半回転させ、Gに向き直る。
「レンテ」
私の耳すりすり攻撃に慣れた佐藤さんが、スピードダウンの魔法を唱えた。
途端にウゴウゴウゴウゴウゴウゴと高速で蠢いていたG達が、ウ…ゴ…ウ…ゴ…ウ…ゴ…とスローリイに蠢きだす。
それはそれで、きもいんですけど!
「紅炎」
今度は槍にかけられたカイの炎。
燃え盛る炎の槍で次々とGを仕留めていく。
そんなカイの姿を呆然と眺めていた青い人は、ふっと我に返ったように前を向くと、未だに地面に突き刺さったままだった、左手の刀を抜いた。
「雷電」
低い声で囁くように唱えられた呪文。
バチバチバチッと音を立てて、灯っては消える光が、刀身に絡みつくように現れる。
初めて目にする雷系の呪文だった。
バシッ、バチバチッ。
Gに刀を打ち付けるたびに派手に飛ぶ火花と音。
やかましいな。雷電。
髪色といい術といい、色々と派手な人だ。
「キール」
なにそれ、シールの進化系?
これまたはじめて聞く呪文が佐藤さんの口から発せられた。
恐らく敵のステータスに介入するのだろう魔法は、やはり見た目には変化がないので、私にはその効果がさっぱり分からない。
けれど、カイや青い人が刃を振り下ろして、引き抜くまでの動作が心持速く軽くなった気がするから、さしずめ防御力なり硬度なりのダウンといったところだろうか。まあ、あくまで想像だけど。
カイと佐藤さんが加勢し、形勢が引っくり返った後はGを殲滅するのに、それほど時間はかからなかった。
全てのGが消え去ると、現れる大量の硬貨(でも全部銀貨だし小さめだから金額はそれ程でもないだろう)とほうれん草にしか見えない薬草の束。
ふうっと、息をついたカイが槍をぶんとふって、とんと石突で地面を打った。
その音を合図に、ずっと刀をかまえていた青い人も、ゆるゆると腕を両脇に下ろす。
もう呼吸の整っているカイとは対照的に、青い人は、肩を上下させて、はあはあと荒い息を繰り返していた。
「……………」
私に出会ったときと同じように、カイは青い人を見つめたまま、言葉を発しようとはしない。
「オクト君。僕たちも降りようか」
佐藤さんの猫耳と猫耳の間に顎を置いて、頬にあたる柔らかな感触にすっかりくつろいでいた私は、困ったようなその声に、はっとして、体を離した。
とうとう誘惑に負けてしまった。
いくら猫耳幼女でも、中身は佐藤さん。中身は佐藤さん。と繰り返し己に言い聞かせるが、正直またやらかすだろうという自信があった。
佐藤さんが虎徹を降りるのを待って、私も地へ足をつける。
カポカポと足音を鳴らして、カイの隣に立つと、佐藤さんは無言で青い人の頭上を見詰める。
「……えーと、fallen angel SEIMA KYO……さん?」
「へ?」
私は間の抜けた声を上げて、佐藤さんを見下ろす。
「……はい」
次に聞こえた低い声に、ばっと顔をあげれば、青い人は顔を真っ赤に染めて、恥ずかしげに目を伏せていた。
「……フォールンエンジェル」
なんだ、そりゃ? と呟いて首を捻ると、青い人は私に目を向けて、一瞬ぎょっとしてから(……くそっ)さっと目を反らして、ますます顔を赤らめる。
「言わないでくれ。痛いってのは自分でも分かってるから」
かすれた声で、青い人はそう言って、刀を持ったままの右手で顔を覆った。
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