誰かさんのせいで俺の青春は破綻している

砥上

膝枕

女の子に膝枕をされている。


今を生きる思春期の男子諸君なら一度は夢見る光景だろう。後頭部に当たる太ももの柔らかな感触は心臓の鼓動を早め、頭の中では様々な思惑が巡る。


散々考えた挙句うっかり告って玉砕する未来が見えるまである。

一時の気の迷いで今後の人生で会うか会わないかの唯一の女友達を失うのはなんとも悲しい事だ。


一重に膝枕。と言っても、いくつかの条件がある事を知っているだろうか?


①膝枕で大事なのはやはり太ももの柔らかさだろう。

誰が悪いとは言わないが筋肉質な硬い太ももはごめんだ。


②柔らかさと来たらやはり匂いだろう。極上の柔らかさと甘い匂いに包まれながら眠る以上に至極な事は無いだろう。

体育後の制汗剤と汗が混じった匂いは何とも言えない気持ちになる。

犯罪不可避。


③柔らかさ匂いと来たら後は容姿だろう。今から最低な事を言うから嫌な人は耳を塞いだ方が良いだろう。

柔らかさと匂いの天秤が釣り合っているのに顔がおかめ納豆みたいな女の子に起こされたいか?

俺は嫌だね。

起き抜けで見る顔がおかめ納豆だったら問答無用で気を失って一生もんのトラウマが構築される。


結論を急ぐのであれば柔らかさ、匂い、容姿。この三つが揃った女の子に起こされたい。


容姿があまり良くない俺の最後のワガママだ。


「………」


「起きたか?」


寝起きの少しボヤけた視界から見える御本の顔は花が咲いたような笑顔だった。


結局何が言いたかったかと言うと、中には三拍子揃っていても嬉しさを感じないパターンがあるという事だ。


俺の母親以外の膝枕童貞は儚くも静かに散るのであった。


せめて、周防にされたかった……。


「何やってんのお前……」


「膝枕だか?」


何故こいつは至極当然の様に応えるのだろうか。


「………」


「どうしたのだ?」


「いや、何で膝枕なんだ?」


「腕枕では寝づらいだろうと言う私なりの気遣いだ!」


「そうか」


「んっ、動くな。くすぐったいだろう」


俺のささやかな反撃は太ももの上で寝返りを打つというとても可愛いらしいものに終わった。


寝起きの頭じゃそれ以上の反撃は思いつかない。


それでも、御本の普段見れないような顔が見れたから良しとする。


「今何時?」


御本の太ももから頭を上げ、そんな質問をしてみる。


「今か?今は13時49分だ」


「は?」


一瞬俺の世界が止まった気がした。


why?


「もう一回言ってくれ」


「ん?聞こえなかったのか?13時49分だ。今ちょうど50分になったな」


「何で起こしてくれなかったんだよ!?」


完璧遅刻だ。


ただでさえ俺と御本は校内でも浮いているのにこんな どうでもいい事で周りからの評価を下げたくは無い。


「何を言っているんだ?起こしたでは無いか」


「は?何言って……!」


あれかー!


夢だと思っていたあの痛みは夢では無かったのか。


うっ、また痛みが……。


「まあいい。早く戻るぞ!」


御本の手を引き屋上を後にしようと立ち上がる。


「ん?」


御本は動かなかった。


「まだ、昼食を食べ終わっていない!」


「どうでもいいわ!」


そんな事より今は教室に戻る方が先決だ。


駄々をこねる御本を引きずり教室に戻る。


クラスメイトの俺を見る冷ややかな視線が痛かった。


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