夏が終わる1


それから数日。

晩夏に相応しい清々しい快晴の朝を迎えた私は、「はじめてのおでかけ」にワクワクしている小さなお嬢様のエスコート役として着々と準備を進めていた。

今日は土曜日、ラジオの仕事も無い。

普段通りに朝の日課を済ませ、朝食の準備をする(といってもパン焼いて電気ケトルで湯を沸かして、おかずは冷食をチンするだけだけど)一方でスマホ片手に外出の下準備もとい情報確認を進める。HKウィルス蔓延する昨今、テロリストの挙動も含めてぬかりなくチェックするに越した事はない。子どもの命を預かっているのだ、そのくらいは普通に調べておかねば。


今朝も目立ったニュースはない。

天気は一日快晴の予報。

着ていく服は簡素に。帰宅したらすぐに洗濯。

防護服は使い捨て。捨て方と回収方法。

ゴミ出し用の密封袋の使い方。使い切りの燃えるゴミ。

真夏日が予想されてるから、水分補給用の専用パウチドリンクも忘れず。それらも指定のゴミ袋に入れて屋外に捨てる事。専門の清掃業者が重装備の防護服で区内を循環する姿を夢想する。


つい先日、夜寝る前にねねやさくらさん(そしてうさちゃんさん)と観たドキュメンタリーで都内清掃の現実と称して「決死の覚悟で撮影された」リアルな現実を見たばかりだ。


閑散とした渋谷。秋葉原。新宿アルタ前。

映像は都内の住宅街に移る。

真夏日の東京下で、宇宙服めいた全身装備で挑む清掃業者。勿論取材班も同じ姿。一時間と立って居られない、と流れるテロップの上で専用トラックの後部、空っぽの積荷部分に駆け込み消毒剤を噴霧されるや、締め切られた車内で「暑い!死ぬ!水!」を連呼しスポドリをガブ飲みする汗だくの撮影スタッフが大写しになる。

一時間ともたない彼等の傍らで、同じ装備の業者は複数人で交代しながらも、何時間も照りつける太陽の下でテロリストの襲撃に注意しながらゴミを回収していく。途中、カメラクルーが見つけた外国語表記の見慣れぬ菓子袋に「テロリストの食事跡か」などとテロップが貼り着く。実際にはどうだったかわからずじまい。結局、淡々と仕事に励む清掃業者を賞賛し、テロリストへの警戒を怠らぬようにとの注意喚起する内容で締めくくられた。いつものテンプレだ。


「こわいねロボちゃん」

「そうだね」

何がどう怖かったのかは、具体的には分からない。

ただ漠然と、「(でもロボちゃんいるから)」と聞こえたので、期待には応えねばと思う。

「お外はまだまだ危ないし、とても暑い」という意識が身につけばオッケーだろう。


「ロボちゃんおはよう!」


ねねは今朝一段と元気だ。

昨日も「あした、はれるかなぁ」「あめ、ふらない?」とやたらにソワソワしていたのがいじらしい。

外出さえも、リスクを伴う昨今。

それでも、皆閉じ込められたままの生活に窮屈を感じている。

面倒な手順を沢山踏まえながらも雨後の筍みたく毎回ニョキニョキ家から出てくる訳で、やはりお日様が恋しいようだ。

幸い、この家は吹き抜けの天窓からスイッチ一つでUVカットされた陽光が差し込む。以前、リモート保育士さんから伝達された保育のお願いを思い出す。

「ねねちゃんが安全に日向ぼっこ出来る場所はありますか?日光浴は体内でビタミンCを生成します!健康促進の一環で是非!ただ、夏の日差しは厳しいので出来れば午前中の朝早くに一時間、ご一緒に!あと水分補給も忘れず!日焼け止めもお忘れなく!」

……などと、実に事細かに言われていたので気をつけてはいるのだが。

ただ、他の家庭でも暑苦しい太陽の光くらいはジャンジャン差し込むかな?

とすると、皆が体感したいのは「外の空気」なのかもしれない。

出不精な私ですら、目の前のウキウキな空気に感化されたか外出時間が待ち遠しく感じられる。

普段は日陰で昼寝三昧なんだけどね。


特に夏の日差しはここ数年避けていた。

夏に限らず、刺すような眩しい日差しは特に。

一時期、酷い時には遅効性の毒みたいに突然頭痛をもよおすし、ふと気づけばふらついて立てなくなるほどだったが。

今朝はとりわけ窓から差し込む日差しが眩しく感じられる。


……


『東京タワーにも、また行きたいねー』

『そうですねぇ。兄弟三人で東京に集まるなんて、今後もうないかも知れませんが』

『だから約束しておけば、それに向けて兄さんが予定組むでしょ?俺たちは、それに合わせて祈祷と法事の予定を入れないようにすればいいだけ』

『ロボ兄ぃがめっちゃいい事言った。褒めちぎろ』

『何も出ないよボンちゃん?そうだ、今日も俺の誕生日祝いで来てるんだから、次回はどっちかの記念日に合わせれば?』

『一ヶ月遅れになってしまいましたがね。申し訳ない』

『んじゃ次はボクに合わせてよシド兄ぃ、冬の東京タワー』

『そうしますか?私は一向に構いませんしむしろ任せなさい、楽しみが増えます』

『俺もそれでいいかな。紀元節祭終わった直後になるけどバレンタインデーなら東京限定の美味しそうなチョコ買って帰れそうだし、何より暑くない!夏の東京観光案内はもういいや、暑い!』


そうだ。

夏。


あの事件直前の記憶が突如鮮明に脳裏を通り過ぎて消える。

背中に冷たい汗が張り付いて、一瞬動けなくなる。


いかん。嫌な事思い出した。

嫌な思い出じゃないのに、その後に起こる事実が勝手に脳内再生されないように全身が硬くなる。

あんなに楽しかったのに。思い出を全部ぐちゃぐちゃにされた怒りと恐怖が一瞬で頭を駆け巡って消えた。


あれは八月頭だった。

誕生日が七月四日だから、丁度一ヶ月後くらいの。

……だめだ。日付を思い出そうとするだけで後頭部が重い。


だから夏はとりわけ外出控えてたんだっけ?

迂闊すぎて今猛烈に冷や汗かいてるんだが。

最近、調子良すぎて忘れてた。

真人間に戻った気がしてたのに。


いい。無理に思い出すな。身構えるな。


呼吸を整える。

腹式呼吸。丹田に意識を集中。


吸う、吐く。吸う、吐く。

深く吸って、長く吐く。

繰り返し、ゆっくり。


……。

……うん。

もう大丈夫。

浅慮が過ぎたとか弱気になっても仕方ないだろ、しっかりしろ自分。


「路傍さん、大丈夫ですか?」

気づけば、傍らでさくらさんが気遣わしげにこちらを窺っている。

「大丈夫です。ただ、ちょっと心配性が頭を掠めて」

「そうですか?もし、ダメそうなら私が」

「いえ、私が行きます。ちょっと、自室で鎮静剤だけ飲んできますね」

飲んでればふらつきがなくなるので、と彼女ではなく自分に言い聞かせるように努めて笑顔で答える。ねねはこちらの様子に気づく様子もなく、無邪気にポシェットを開けたり閉めたりしている。


「ねねちゃん、今日はおでかけです。しっかり食べて備えましょうね」

「はい!(たのしみ!)」

支度してきますね、と階段へと向かう背中に、うさちゃんの視線を感じた気がした。



『区役所健康づくり課よりエリアメールです』

「読んで、アレックス」

『開封します。……本日、午後一時から五時まで、外出緩和デーとなっております。外出希望の方は、必ず指定の使い捨て防護服を着用の上、三時間内を目処に外出してください。また、帰宅後の防護服の捨て方や着衣の扱い、全身洗浄を忘れないようにしてください。詳しくは区役所健康づくり課ホームページをご覧ください。それでは、熱中症に気をつけて外出をお楽しみください』

熱中症に気をつけて、か。

そこまでしてよく出歩くなぁ、と思っていたが。

「ロボちゃん!もうじかんないよ!」

このお嬢さんのはしゃぎよう。

小さい子がいるご家庭は毎回大変そうだなぁと苦労がしのばれる。

今日のねねは、水色のシンプルなワンピースにウエストポーチ姿。ポーチ内にはハンカチと小さな使い捨てパウチ入りスポーツドリンク。子どもでも扱いやすい、切り口を千切るタイプの100mlサイズを二本、もとい二枚(平たいアルミパック)。それと除菌効果付き冷却スプレー。足には固定しやすいマジックテープ着脱のスリッポンを履かせる。ボタンタイプは防護服のナイロン一枚挟むだけで着脱の難度が上がるらしく、抗菌仕様のマジックテープシューズが推奨されている。テープ部分に菌が付着しないのか不思議だが、まあ、引っかかりそうな装飾や溝やヒモを除去したごくごくシンプルなスリッポンタイプ。足を完全に嵌めるタイプだと、それはそれで脱ぎ着させにくい。痛し痒しで上部のみテープ仕様のシューズを選んだ。

「(おはなちゃんついたのがよかったな)」

と、後でポソリと(脳内で)呟いていたので布地に花柄がついた青い靴に選び直すとニコッとしていた。赤い靴はこわいからイヤ、だそうだ。絵本の読み聞かせがこんなところで出てくるとは、子どもの吸収力の素晴らしさよ。

ともあれ、靴選び一つでこれだけ大騒ぎなのだから他のご家庭もさぞや大変なんだろう。普段、見もしないし触れてもこなかったご近所の苦労や同じく準備しているだろうリスナーを思い、私はねねの支度を急いだ。



『使い捨て防護服は、99.9%ウイルスカットを実現した画期的製品です。この素材は大気のみを通過させ、熱も籠りません』

『一見ナイロンと酷似しておりますが、特殊な製法で編まれた抗菌加工繊維を用いております。3D縫製の為、縫い目からのウイルス侵入の危険性も大幅に低減しており、春夏の蒸し暑い時期の外出にうってつけです』

『ですので』

『着用者はむしろ熱中症に気をつけ、真夏日に相応しい薄着での外出を推奨しております。半袖、ハーフパンツ等で出来るだけ肌を露出し、日焼けによる火傷を防ぐため、日焼け止め対策は充分に行った上で、日光浴を楽しんでください。日光浴では紫外線を浴びることによりビタミンDが生成され骨が丈夫になるほか、幸せホルモンと呼ばれるセロトニンも生成されます。厚生省はかかる事態においても国民の健康という観点から全国民に対し日光浴を推奨しており__』


もういいか、と思い外出緩和デーの政府公認動画を停止する。

政府推奨の日光浴=真夏日の外出。

ただし、熱中症での救急案件は自己責任。

国民の健康と命を慮る()政府とは一体。

まあいい。

絶対どうしても外出禁止!と言わないだけ日本政府は柔軟だと思っておこう。

ねねにもお誘いを受けたから、外出はやぶさかではない。

問題は、この使い捨て防護服とやらで果たしてHKウイルスに立ち向かえるのかということ。


これ、どう見ても見た目「透明度のめっちゃ高いレインコート(全身ジッパー付きで密閉仕様)」なんですけど。

脱ぎ着の仕方も事前に確認したけど、簡単すぎて不信感しかねえーーーーーーー。


1、ジッパー開ける。

2、足から全身をすっぽり収める。

3、ジッパーを上げて密閉。

4、終了。

(全身を覆うので、事前に靴まで履いた状態で着てくださいね!靴底部分の吸着には脱気密着弁を使用しますので、外出終了時まで弁開閉アタッチメントをポーチ等に入れて捨てないようにしてください!と赤い太文字で記載されている)


内側からジッパー開け閉めできる日本の技術クオリティぱねえ!となるか馬鹿野郎。パンツと胴体部分にあるベルト状のひだを引っ張ってウエスト調整したら、もう動けるようになる。

靴まですっぽりだ。

簡単だなぁ。簡単すぎるんだよなぁ。つか、切りつけられたら終了する薄さが怖い。

これで俺とねねの命守られるの?

外に出た瞬間、鼻血が出て全身から血が噴き出して人生終了しやしない?

マジで大丈夫?


『初外出者あるあるな反応ですね!ひょっとして、路傍さん一度も緩和デーで出歩いたことないんですか?せっかくの最新ハイテク素材使い放題の無料配布なのにもったいないですよ!!』

区役所の生田氏に半笑いで太鼓判押されてちょっとカチンときたのは内緒だ。

とまあ、こういう理由もあって出かける踏ん切りがなかなかつかず、ねねにせっつかれること数十回。

ようやくというか、お待たせというか、家の外に一歩踏み出す。


ねねと午後の住宅街を歩く。

もう出歩く人々はすでに出ていった後、人気のなくなった家の外では粉塵で煤けたアスファルトやブロック塀がジリジリと暑い真夏の太陽に炙られていた。照り返しで既に焼肉の網に向かう薄切り肉になった気分だ。


さすが夏、暑いわこれ。

予想通りの真上から照りつける太陽光の痛さといったら。

……お役所、頼むから、次回は午前中の開放にしてくれ。

せめて、夏だけでも。

これ絶対九月も酷暑が続くだろ……と脳天をジリジリ焼かれながらぼんやり思っていたら、クイクイッと手を引かれる。


「ロボちゃん?(どしたの?)」

おっといけない、立ち止まっていたらしい。

何でもないですよ、と彼女の小さな手を取り目的地へと歩く。


頭上から霧状の水滴を感じ、見上げると遥か頭上にいくつも水煙が立ち上っている。街の公共施設や公園に設置された除菌水噴霧装置が稼働しているのだ。


「すずしーねロボちゃん」

「助かりますねぇ」


役所側もラジオ広告やテレビ・動画配信サイトで熱中症と殺菌対策を万全に行なっています!と喧伝していたが、実際目の当たりにすると安心感が増す。

頑張れお役所。

ほんのり涼しいくらいだから倍量噴霧してくれても構わないぞマジでマジで。


「汗かきますね」

「ホントだね(ベチョベチョするー)」

「こまめに拭いてくださいね」

首にかけたタオル(使い捨てキット内の綿100%国産タオル。これも後で防護服と一緒に捨てる)をチョンとつまみ、ねねに見せるようにして首や顔を拭うと、ねねも真似して額を拭う。


「ねねちゃんは、どこか行きたいところありますか?」

「ううん(ここどこかわかんない)」

「そっか。じゃあこのまま川沿いの公園に行ってもいいです?」

「うん!(いく!!)」


お出かけ自体は楽しいみたいで何より。

静まり返った一戸建てがひしめく細道を抜け、川沿いにある水辺の緑道公園に向かう。そこならスロープもあるし、階段の登り降りもない。幼児をあまり川べりに近づけたくないが、この蒸し暑さで涼しげな場所が他に思い浮かばなかった。


川が近づいてくると、少し風が出てきてぬるいアスファルトの匂いと冷たいエタノール臭の混ざった温冷混ざりの空気が流れてくる。まあ、少しでも涼しいだけセーフ。ねねは暑いの大丈夫だろうか。マスク無しでいいとの触れ込みを信じて丸腰ならぬ丸口で外出してきたが。幼児のマスク装着は熱中症の元だと口酸っぱく言われてたが、やはりつけさせるべきだったかな。

防護服は触れ込みどおり、呼吸もしやすいし一度着てしまうと全然密閉を感じさせないエアリーな質感なのがわかる。

足底部分のみ、同梱の吸着用空気弁アタッチメントを使うがこの薄さで歩いても破けないんだ……と生田氏に指摘されそうな「初回体験者あるある」を正に実感している。

こんな便利素材が今までなぜ世に出てなかったんだと思うが、ネット上の怪情報によれば「NASAの極秘開発」「JAXA製の宇宙開発用素材」「対バイオテロ対策の過渡期生産品だから世に出せた説」等々。要は兵器絡みか宇宙開発の絡みで世に出されてなかった説が大勢を占めている。それっぽいが所詮はネットの情報、真実は知らんけども。


「ロボちゃんあつい?」

「そうですね」

「ごめんね」

「どうして?」

「だってね、ねねがね、でたいっていったから」

「それは気にしなくていいですよ。私も外出してみたかったので」

「ほんと?」

「本当です。それより、喉は乾いてませんか?汗は拭けてますか?川沿いの公園に出たら、そこに座れる場所があるはずです。日陰になっているでしょうから、そこで一休みしましょう」

「うん!(よかった……)」


何だか顔元暗いなと思っていたら、私を気遣っていたのか。

朝、一瞬具合悪くなりかけてたのに気づいて……いや、それならおそらく外出前に私を気遣って行く行かないでもっと愚図るように思う。

ねねはそういう子だ。

すぐに悪い事を自分のせいだと考えてしまうし、自分が常に間違っていないかと気にしている。私が具合を悪くするのも、誰かが不幸になるのも、間違えるのも全部自分のせい。実際には全然ねねのせいではない事でも、すぐに謝る癖が身についてしまっている。

三歳にして気にしすぎでしょうねねさん。

本来ならもっと親にワガママ言ってる年齢でしょうに。

そう思うと気の毒になる。


名も知らぬ河川沿いに整備された公園。広々とした河川敷は青々と芝生が茂るままにされ、公園の敷地内だけ手入れされた形跡がありありと見える。キリンさんの滑り台、青いゾウさんの頭がくっついたジャングルジム、うわぁ、とねねは感嘆し見上げるばかりで手出ししようとはしない。


「ねねちゃん、残念ですが今回は触れません。先生にも言われてましたね?」

「……うん(すべりたいなー)」

郊外に設置された遊具は消毒や拭き取りが充分にできない。陽光で熱された遊具で防護服が損傷する可能性もあるため、外遊びでの遊具使用は厳禁とされている。ブランコですら、鎖部分で引っ掛けて手元に穴が開く可能性があり触れてはいけないと動画で紹介されていた。ごめんね、と心の中で詫びるとねねの手を引いて休憩スペースの屋根付きベンチに向かう。


お互い防護服を脱ぎ着できないので、ジュースの取り出しもタオルでの顔拭きも、外出中は自分でしてもらわなければならない。

ねねもこの日のためにリモート保育の授業でナイロンカッパを着て練習していた。何事も鍛錬は基本、ハッキリわかりますね。


「ねねちゃん、ポーチからジュース出せる?」

「うん(がんばる)」

マジックテープ式のウエストポーチの上蓋を開け、中からパウチドリンクを取り出しツマミを千切り取る。そのまま根元がリング状になって残るので、ゴミもそのまま持ち帰りできるデザインだ。ポーチは中面がアルミ仕様なので保冷もバッチリ。100ミリリットルのスポーツドリンクをごくごくあっという間に飲み干す。

その一連の所作を見守るだけでドキドキだ。

ねねの真剣さや集中力に感心する一方、何か失敗しやしないかとヒヤヒヤ落ち着かない。


「ロボちゃん、のまないの?」

ドリンクパウチを2本飲み切ったところでねねに指摘され、慌てて同じ動作を行う。私は大人だから、倍量の200ミリリットルパウチを腰元のポーチから取り出しツマミを千切り……ちょっと中身を手元にこぼした。


「こぼれたよ!(だいじょうぶ!?)」

「あっとしくじった、ごめんごめん大丈夫です!大丈夫ですから!!」

お大師様だって時には書き間違えるんだ、陰陽師だって時にはしくじる。

だから大丈夫だぞ俺ー、この着古したTシャツ汚れたって大丈夫だぞー、と思ってたらねねが怪訝そうな顔してこちらを見てた。


「のまないの?」

「アッハイ!いただきます!!」

「のまないとたおれちゃうよ?(それとも、のまなくてもだいじょうぶなのかな……)」

「いや飲まないと危ないですね!!いただきます!!」

ねねは怪訝そうな顔でこちらを見上げている(二回目)。視線が痛い。


「んー(やっぱり、ロボちゃんはロボットなのかなぁ)」

違います。

何故そんな風に思われてるんだ俺、しっかりしろ。

己を鼓舞するように、ドリンクを一息で一気に煽った。

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