第4話


 投げ捨てられた体は人とならない人の上に重ねられる。全身の痛みやまともな方向に向かない足ではここから逃げるすべはない。


 手を付き起き上がろうと下が私がついた手元は裸の女の頬で、動かそうと動かした足は冷たくなった性別の分からない子供の腹部の上にあった。


「用事があらるからしばらくここにいろ」


 男達はそう告げると愚痴をこぼしながら部屋を出ていく。扉を閉められ真っ暗になり、視界以外の五感からの情報が鮮明になっていく。


 下から聞こえるうめき声に激痛に耐え、人の山を転がる。空間には吐瀉物、糞尿、死臭、甘さ、腐敗臭など鼻につくあらゆる香りが充満し、それを消すかのように強い香水の香りまでした。


 鼻呼吸で吸い込んだ臭は吐き気に変わり吐瀉物として口から出る。


「……っ、はぁ、はぁ、はぁ」


 なんとしてでもここからでなければ。身ぐるみ剥がされれば騒ぎになる。這いつくばり床に爪を立て前に進んだ。指は擦り切れ爪は割れる。重りのような下半身を引きずり扉まで動く。


 しかしいくら体をぶつけても重い扉は開くことはない。血が出る指を隙間に入れてむりやりなんとかしようとしても爪がより割れるだけ。何にもならない。


 部屋にある荷物にしがみつき無理矢理立ち上がれば全身から悲鳴が上がった。


 歩けない、立てない、腕を挙げられない、痛くて仕方がない。


 体から上がる様々な苦情を受けながら壁沿いに歩いていく。あと少し、あと少しで。


 そう願った時、ゆっくりと重々しいドアは開かれた。


「ぇ……、うそ……」


 暗い部屋に差し込む光。憎たらしいその明るさに立つ力は削がれてしまい私はそのまま床に崩れ落ちた。


 ガンっと頭が床にぶつかる強い衝撃と共に私の意識はその場で途切れた。暗い部屋に映る一人の影がじっとこちらを見つめているのを知らないまま。

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