M to chaîne

白綾

第1話


「はぁ、はぁ、はぁっ……」



 足の裏はいつの間にかゴミが刺さり、傷口から出た赤黒い血が地面を汚す。薄暗く腐敗臭がする路地には虫が群がる動物の死骸が転がっていた。


 小さい頃に本で見た地獄のイメージの何倍も酷い光景はいつしか体に馴染み、今では私もその景色の一部へ。


「こっちにいるぞっ、追え!!!」


 あちこちで聞こえる怒鳴り超えから際立って目立つ怒号が後方から投げかけられた。鳥肌なんてもう立たないが臓器が一つ握りつぶされるような恐怖感は今だ体をめぐり続ける。


 逃げなければ、本能のように足を動かすが血だらけで地面に触れるたびに激痛が走る足は使い物にならない。


 それでも走らなきゃ。感情なんてまともになくつま先立ちをするように足の前方部分を地につけ、駆ける。


駆けて、駆けて、駆けて、駆けて。


 石ころや泥、腐りきった果実に割れたワインボトル。グニュリと何かしらの肉と小さい骨まで踏んで路地を巡る。


 今にも崩れそうな小屋とレンガの隙間。置いてある壊れかけの木箱にのり、場違いのように街の上を流れる水路を飛び越えた。


 枝毛で絡む髪が広がりそのまま地上に身を投げる。


「いっっ、……ぐぅ」


 落ちた麻の袋は硬く、打ち身を取らずに落ちた私の体を容赦なく叩き上げた。衝撃に顔を歪ませおかしな方に曲がった足は呼吸をする振動だけでも痛い。


 体に巻きつけた銃の重みは今は私を縛るものにしかならなかった。


「居たぞっ!!」


 先程聞こえた怒号が今は数メートル先に。


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