なぜ赤信号を渡るのか。
「勇気がないからだよ」
そう言って奴は白線を踏んだ。
「どう考えたって逆だろ、赤信号渡るやつなんて無謀な勇気の塊なんだから」
「お前は本当口悪いよな」
自分も人のこと言えないだろうに。奴はけらけらと笑いながら最後の白を踏み切って歩道に乗りあがる。
「死にたいくらい辛いときってあるじゃん」
追いついたころに降りかかる言葉。声色に合わず酷く重たい内容。
「線路に飛びこんだりってか?今は無理だろ」
「田舎ならできるんじゃない?」
健全な高校生なはずなのになんて不健全な会話だろう。周りに咎めるような人もいないが。
「まぁ線路じゃないにしても、頑張ればいつだって人間死ねるじゃん。でもぼくって死ぬ勇気も自分を傷つける勇気もないからさ」
奴がふと足を止めた。街灯の音だけがする空間でぼうっと先を見渡している。視界の先は青色になった信号機が誰もいない横断歩道を照らしているだけ。
「まぁ、安全だって分かってないと渡らないけどね。危ない信号を渡る勇気もないし」
ーーーーーーーーーー
「…勇気なんかないんじゃなかったのかよ」
教室。奴の席には白い花瓶。美しい花が一輪生けられている。
誰もそれを茶化すことはない。冗談だって笑い飛ばす奴もいない。
「救いようがねぇ滑り方してんじゃねぇよ、笑えねぇじゃねぇか」
救えない冗談は嫌いだ。でもそれ以上に救わせてくれなかった奴はもっと嫌いだ。
(暗転)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます