花言葉なんてクソくらえ。

 つい先日、僕は彼女にプロポーズした。

 通勤途中に目に留まった彼女を思わせるような素敵な花束を携えて。


 プロポーズの段取りは決して間違っていなかったと思う。待ち合わせ場所にはいつもよりも30分も早く着いていたし、彼女が1時間遅刻しても文句ひとつ言わなかった。なるべく長距離を歩かないルートを設定して、ふらっとした寄り道で使ったお金は全て払って、荷物も全て持ってずっと笑顔を心がけていた。勿論ディナーは夜景が綺麗に見える高級レストラン。ずっと彼女が来たがっていたところ。


「なぁ…」


 切り出し方は好調だった。少しだけお酒も入り彼女の機嫌も上々だった時。俺はお店の人に先に渡していた花束を受け取ると彼女の目の前に差し出してこう言った。


「これからも君を幸せにしていきたいんだ…僕と結婚してください!」


 普段は噛み噛みな僕だったが、今日は完璧だった。

 だったはずだったのだが…


「いっだ!」

「さいってー!」


 僕に返ってきたのは彼女の平手打ち。

 そしてすぐさま彼女の怒号が僕の鼓膜…いやレストランの全ての人の鼓膜を揺らした。そして着ているスカートも気にせずに大股でレストランを後にされてしまった。


「大丈夫ですか?」


 思わず散らばった黄色の花弁の中心に座り込んでしまった僕を見かねた店員さんが手を差し伸べてくれる。


「すみません…お店の迷惑になっちゃったみたいで…」

「いえ」


 そして僕を起こした店員さんは散らばったままの花弁を見て少し考え込むような態度を取ってからこっそりと僕に彼女が怒り狂った原因を教えてくれた。


「まじか…」


 あぁ、花言葉なんてクソくらえだ。


 黄色いカーネーションの花言葉…軽蔑



(暗転)

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