メガネの女神

弱腰ペンギン

メガネの女神

 ある日、大学に行こうとメガネをかけたら女神さまが現れた。

「メガネを心から愛する者よ。あなたに神の祝福を与えましょう」

「祝福とか要らないので女神さまをください」

「えっ」

 めっちゃ好みだった。

 サラサラロングの黒髪に銀色のメガネ。

 裾が広がっているロングスカートに隠れ切らない、豊かな起伏。とてもいい。

 後ろに後光なんかしょってるけどそんなものは飾りですよ。

 それよりもまるでメガネが顔の一部であるかのような。生まれた時から一緒だったかのような一体感は人間離れしている。

 人間じゃないんだけど。

「っちょ、それはダメですよ!」

 戸惑っている顔もかわいい。照れて顔を赤くさせてるのがなおいい。

「なんでダメなんですか!」

「だ、だって祝福を与えに来たんですっ! 私をあげたりなんかしません!」

 ちょっと幼さの残るお姉さんの声もかわいい。やばい、今なら宗教作れる気がする。

「その、祝福、良いんですよ?」

 女神さまが上目遣いで祝福をお勧めしてくれるが、俺よりちょっと背が高い関係上、腰をかがめなきゃいけなくなっているのがかわいい。

 まるで子供をあやすお姉さんみたいな感じがとてもいい。

「具体的にどう良いんですか?」

「えっと、とってもかわいいメガネっ子と出会えます!」

「もう出会えました!」

 おっと、俺の大きな声のせいで女神さまを怯えさせてしまったようだ。

「え、えぇっと、メガネからビームが出せるようになります!」

「ビームより女神さまがいいです!」

「えぇ!? こ、困りますぅ……」

 はぁ、癒される。人生で一番幸福な時間だ。

 この女神さまがそばにいてくれたらどんなにうれしいだろうか。

「どうにかして、女神様と一緒に過ごしたいです!」

「そ、そんなこと言われましても。あ、そうだ!」

 女神さまが何か思いついたようで、両手を胸の前でポンと合わせた。

「それでお願いします!」

「えっと私と一緒に天界に、ってまだ何も言ってないですぅ!」

「それで、お願いします!」

 女神さまの提案なら何でも構わない!

「えっと、だから最後まで聞いてくださいね?」

「わかりました!」

 お望みとあらば!

「私と一緒に天界に行くのであれば、一緒に過ごすことも、出来なくはないですよ?」

「それでお願いします!」

「えっと……死んじゃうってことですよ?」

「それで、お願いします!」

「その、天界で、事実上、過ごしていると言える、だけですよ。ずっとそばにいるというわけじゃないんですよ?」

 何度も念入りに確認をしてくれる女神様。本当にやさしい。

 あなたと一緒に居れるなら、それだけでいいですよ!

「はい、大丈夫です!」

「わ、わかりましたぁー」

 女神さまの『えいっ』という声と共に、俺は意識を失った。


「はい、これで魂の回収終了。いやー仕事も楽になったわ」

 寿命を迎えた人間の魂を回収し、黄泉の門に送る。

 昔はあれこれ怯えらえられたりなんなりで大変だったのに、今じゃこのありさま。

 楽な時代になったもんだ。特に連絡は。

 スマホを取り出すと受付係に電話で確認する。昔は顔を出さなきゃいけなかったけど、今じゃ電話一つでOKだ。

『おつかれさん。こっちに帰ってきたら一杯やるか?』

「あたしゃ酒が飲みたいわけじゃないから付き合わんけどな」

『連れないことを言うな。同じ死神、もとい女神様同士仲良くしても罰は当たらんぞー』

「考えとく」

『ははは。あいよ』

 あー、肩こった。まったく。幸せそうな死に顔しちゃってまあ。悪い気はしないけどね。


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メガネの女神 弱腰ペンギン @kuwentorow

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