第27話

「これがナナツメ草。葉っぱが七つの目に見えるからだ」


「はえぇ」


 ロウと一緒に森を歩く。街並みの喧騒を離れ、娘の様な関係性を築いている彼女と自然の並木に溶け込む。何という癒し効果だ、俺はまた戦える様になったぞ。


「この辺では結構有名な薬草でな。下から順に葉っぱが大きいだろ? 上の方になると葉っぱが小さくなって、効能も高くなるんだ」


「上の方が強いの?」


「そう、上の方が強いの。屋敷の分も摘んでおこうか。保存も効くし、お店では高く売れるんだ」


 ロウと一緒に数本摘み取る。屋敷との境界線を越えて保管し、更に奥へと進む。


「最近大変そうだねぇ」


「んん? 俺が?」


 コクコクと頭を振り、ロウは柔らかく崩れた笑顔で見上げてくる。


「レオナが怒ってたよ? 帰ったら襲うって言ってた」


「お、襲う……? 怖いなぁ……守ってくれよロウ」


「ケーキくれたら守ってあげるぅー」


「ぐぬ……意外と強かだな……」


 レオナから襲われるとは一体どういう意味だろう。俺が何かしてしまったのだろうか。帰ったら話を聞いてみるとしよう。


 林を抜けると耳に重く落ちる水の音が聞こえてくる。滝が近くにあるようだ。


「わはぁー、凄いアレ!」


「滝だな近くに行くと涼しいぞ」


 子供らしくはしゃぎながら滝へと近づくロウ。俺もその後を追い、滝の側までやってくる。


「ねぇ、ねぇ! 泳いで良い?」


「えぇ? 大丈夫か? まだ寒いだろ」


「平気ー!」


 俺が答えるよりも前に服を着たまま川へと飛び込む。ここにある滝が小さいもので良かった。


「後でリゼさんに怒られるぞ……っと」


 水流を操り俺の体に水が触れない様に川へと降りていく。


「おぉ……すごいすごーい!! ねぇねぇ、ロウもそれ出来るの!?」


「いつかな、今は出来ないけど」


 流水を操り宙へと浮かす。ロウを絡めた水はふわふわと舞い、様々な動物の形を作る。ロウが滑り落ちない事だけに注意して、僅かな時間で水流ショーを上映させた。


「すごいね……魔法って! ロウも、大きくなったらザインみたいになるっ!」


「ああ、成れるよ。これからいっぱい勉強していこうな」


 だからこそ俺は確立しておかなければならない。ロウという生命の安全性を。残り何十年だろうが、寿命の限り生きていけるだけの保障を。


「そろそろ帰ろうか。あんまり遅いとリゼさんに怒られるから」


「えぇー! もうちょっと遊ぼうよー!」


「また今度な。今度は皆と一緒に来よう」


 愚図るロウを宥めながら水流を降下させる。そのまま彼女を抱き留めると、いつもより体温が上昇していた。外気との反応なのか、紅い頭髪は仄かに輝きを増している。


 早々に依頼の品をギルドへ納品し、帰路に就く。暫くはロウの体の研究と、こんな依頼をこなす日々になりそうだ。

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