第109話
無事に
「にょほほ! 見事な手際ですな。ちゃんと素材を傷めぬようにしているのが見て取れますぞ」
「まあな。素材をダメにすんなってのは昔に口酸っぱく言われたんでね」
「モニカ殿にですか?」
「いや、別のヤツだよ……つか、この〝
そこまで激しい戦闘は行ってないはずなのに、やたらと身体が重い。すると何やらエレノアが慌てふためいた。
「にょほっ!? いけません、ケント殿! 早く変身を解除するのです! 〝
「は!? そういうことは先に言えよ!?」
俺は慌てて変身を解除した。念の為にステータスを確認すると、いつの間にか体力が半分を切っていた。いや、危なすぎんだろ。
「さて、それでは竜を回収しましょう。運搬はお任せあれですぞ」
そう言ってエレノアは【収納】魔法を発動させた。竜の亡骸があっと言う間に消えていく。相変わらず便利な魔法だ。
「……これで借金問題は無事解決ね。流石に疲れたかしら」
竜の回収を終えた後、モニカが一息ついた。まぁ、無理もない。
自分よりレベルの高い魔獣と相対するのは相当なプレッシャーだ。それに【白聖衣】で魔力もかなり消費してるだろうしな。ここはちゃんと労うべき場面だろう。
「そうだな。でも、ありがとな。お陰で助かったぞ」
そんなわけで俺は彼女の頭を軽く撫でる。
突然の事に驚いたのか。モニカは顔を真っ赤にしてこちらを睨みつけた。
「ひゃ! な、何よ急に! びっくりするじゃない!?」
「あ、悪い。驚かせちまったか」
「べ、別にいいけど……でも、お礼なんか言われてもピンと来ないわよ。魔獣だってほとんどアンタが倒したじゃない」
「いやでも、色々とフォローしてくれたろ? 確かにエレノアのアイテムはすげーけど……発動までが無駄に長いからな。お前がいてくれなかったらポーズを決めてる間にぶん殴られてるさ。そういう意味での〝ありがとう〟だ」
「そ、そう? まぁ、そうよね! あんたは……あ、あたしがいないと駄目だもんね?」
俺が告げると、モニカが髪を弄りながらそっぽを向く。
そんな俺たちの会話を見てか、エレノアがにょほにょほ笑いながら言った。
「……アオハルですなぁ」
◇
それから俺たちはタロッサの街へと帰還した。
まずは休憩と言いたいところだが、前世のように常に懐が温かいわけではない。とりあえずは現金を作るべく冒険者ギルドへと立ち寄った。
「こんばんは! 依頼の報告ですか?」
受付へ近づくとさっそく声をかけられた。今朝、依頼を受付してくれたお姉さんとは別の人だ。
それなのに、なんで納品だってわかったんだ?
そんな疑問が湧いたが、よくよく考えれば簡単な話だった。
既に外は暗い。時間的にも完了報告に来る冒険者の方が圧倒的に多いからだろう。
「白級のケントだ。さっそく納品といきたいところだが……大型魔獣だから、ここじゃ出せないんだ」
「白級のケントさんですね? えーっと依頼は……ラク茸の採取となっていますが……?」
不思議そうな顔をする受付のお姉さん。そういえばダミーで受けた依頼が採集だったのをすっかり忘れてた。
「あー、そっちは失敗した。けど、代わりに素材として売れる魔獣を狩ったんだよ。今回はそれを換金したい」
「なるほど、そういう事でしたか。それでは中庭に案内しますね!」
お姉さんはにっこり笑うと、カウンターから出てきて俺たちを先導する。俺たちも黙って彼女に着いていった。
ホースイーターを持ち帰った時もそうだが、大型の魔獣を納品する時はギルドの中庭で渡すのだ。言ってしまえば管理局の解体施設みたいなもんだな。流石にあそこまで設備は整ってはねえけど。
「はい、着きましたよ。それではお手数ですがあちらの区画に納品物を出して頂けますか?」
そうこうしているうちに俺たちは中庭へと到着。
ギルドのお姉さんは中庭の一区画を手で示しながら俺たちに指示を出した。
「わかった。頼むぞエレノア」
「にょほほ! お任せあれ! ギルド職員の度肝を抜いてやりますぞ!」
趣旨が違うんだが、まぁ本人が楽しそうだからそれでよしとしよう。
エレノアが【収納】魔法を発動させると、空間の裂け目から二体の竜が現れた。
宝石のように美しい鱗が、甲殻が、星明かりを反射して煌めいた。
改めて眺めると本当に美しい。こりゃ高値が期待できそうだ。
「目玉はこれで、後はコボルトの魔石がいくつかだな」
ダンジョン内でBランク相当の魔石も大量に手に入れたのだが、それはエレノアに渡す事にしている。というのもゴルドレッドで消費した高ランクの魔石を補充する必要があるのだが、わざわざ魔石の売却金で買い直す意味が無いからな。
「いくらの値がつくのかしらね? あたしたちみたいな田舎の村出身には検討もつかないわ」
「だな。つーわけで交渉ごとはエレノアに任せるぞ」
「にょほ! 任せてくだされ。こう見えて元令嬢! だいたいの相場はわかりますからな」
竜素材の売却は前世でも経験してるが、あっちは日本円だからな。ここは曲がりなりにも身分が高かったエレノアに任せるのが最適だろう。
「それでは早速、査定をお願いしますぞ! にょほほほほほっ!」
エレノアが元気よく言う。その視線の先──受付のお姉さんは信じられないといった表情をしていた。
「はい? 竜、ですか……? え? 竜……!?」
「えぇ、見ての通り竜ですぞ? それより早く査定をお願いしたいのですが……我々、魔獣と戦い疲れてお腹もペコペコですからな」
エレノアが不満そうに吐露すると、お姉さんはハッと我に返る。それから慌てた様子で俺たちへ告げた。
「ギ、ギルドマスターを呼んできますっ!」
「え? あ、ちょっと……!」
俺が言葉を返す前に、受付のお姉さんは猛烈な勢いで建物に戻っていった。
その様子を眺めていたエレノアが小首を傾げながら呟く。
「にょにょ? 我、何かやっちゃいました?」
だから
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