第12.5話

「……ただいまーっす」


 新たなパーティーを組む約束を取り付けた私は、そのまま寄り道せずに帰宅した。

 何の変哲もない一戸建ての我が家。その玄関先で脱いだ靴を丁寧に靴箱へ仕舞うと、私は素足のままリビングへ足を運んだ。


「おう、星奈か?」


 部屋に入るや否や、声をかけてきたのは親父だった。中年特有のだらしない身体をソファに預けた親父は、首だけ傾けてこちらを見ていた。

 奥の机にはコンビニ弁当が広げられている。多分だけど、夜勤前の夕食だろう。親父は警備会社に勤めており、夜勤前はいつもこうして早めの夕食を取っていた。


「今日はやけ早かったな。喧嘩でもしたのか?」

「いや、今日は新しくパーティーを組む人と顔合わせしてきただけっす」

「そうか……って事は、もう抜けたのか? 流石に早すぎねぇか?」


 問いかけながら、呆れたような表情を見せる。

 親父が言っているのは、以前に私が所属していたパーティーの事だ。そこへ加入すると報告したのが、つい2日前の事。そこから初めて一緒に探索したのが昨日で、その日の探索を終えると同時に私は脱退していた。

 理由は単純で、そこのリーダーの性格が気に食わないからだ。私の年齢を知るや否や『若いうちは勉強した方がいいよ』だとか『若いうちは青春を楽しんだ方がいいよ』だとか。〝人生の先輩〟ヅラをして、求めてもない助言や人生観を語られるのが、とにかくウザかった。

 そんなわけで、私は一日足らずでツレと一緒に脱退を決め込んだわけである。


「……別にウチは悪くないっすよ。年上ってだけで先輩気取りの奴が多すぎるんす」

「ま、馬が合わないってのは仕方がねぇけどよ……こうも早いと流石の俺も心配するっての」


 基本的に親父は、私に我慢を強いたり、やりたい事を否定することはない。それが親父の教育方針で、それに私はとても感謝してる。

 だけど、そんな親父から見ても、私が短期間で所属パーティーをころころ変えているのはあまり良い状態と思えないのだろう。


「親父が心配する気持ちはわかるっすよ──でも大丈夫っす」


 だけど今日、加入の話をつけた彼は、これまで出会った冒険者と違った。

 学業を疎かにして冒険者の道を突き進む私の事を否定するどころか、立派だと言ってくれたのだ。

 もしかしたら彼だけが特別な存在じゃないかもしれない。たまたま私のパーティー運が悪かっただけで。同じように私を肯定してくれる人は、世の中にもっと沢山いるかもしれない。


 ──それでも、ちょっと期待してしまったのだ。

  

「次のパーティーは、結構長く続けられそうな気がするっすから」


 私が言葉を返すと、親父は「そうか」と満足そうに笑う。もう安心したらしい。そのままテレビ番組の方へと視線を戻した。



 ◇



 親父との会話を切り上げた後、私は自室に戻る。転がるようにしてベッドに身体を預けると、ポケットからスマホを取り出した。

 連絡先一覧から〝親友〟の名前を見つけ、メッセージ送信画面を開くと、画面をフリックして文字を打ち込んでいった。


「新しいパーティー、が見つかった、すよ……っと」

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