第4話

「【炎弾ファイアブラスト】ッ!」


 俺の魔法が命中し、眼前の魔獣──アシッドスライムは、他のどんな生物にも例えがたい悲鳴をあげながら絶命した。


「いい調子ですね。このペースならもっと深い階層まで探索できそうです」

「あはは、お役に立ててよかったです」


 E級ダンジョン【修練場】。先の戦闘で自信をつけた俺は、流れで四層目まで降りてきていた。

 視覚から得られる外観的な情報は一層目と変わらない。似たような岩盤の洞窟がひたすら続くだけだ。

 

「アシッドスライムが倒せるとなると本当に助かりますよ。こいつらの体液は装備を溶かすんで、できれば戦いたくない相手です……剣の補修費も馬鹿にならないですからね」


 代り映えしない風景が続いているが、出現する魔獣ついてはやや変化があった。

 現在、主に出現しているのはアシッドスライムと呼ばれる黄土色の体液を持った魔獣だ。

 戦闘力自体は最初に狩ったグリーンスライムとそれほど大差が無い。だが、こいつの腐食液は装備の劣化を早める効果がある。

 しかもアシッドというのは比喩的な名称で、その腐食効果は金属装備だけに留まらないそうだ。

 別名、初心者泣かせ。装備の整わない初心者にとって、それだけで非常に戦いづらい魔獣である。


「ホントです! 武器はともかく、衣服についた時なんてサイアクですし!」


 心当たりがあるのか、少しムッとする三浦さん。あぁ、服を溶かすスライムね……。その言葉からは、ちょっとイケない漫画の場面が容易に想像できた。


「ところで、そろそろ馬原さんもレベルが上がったんじゃないですか? 一層目から結構、スライム狩りましたし」

「あぁ、そうかもしれないです。ちょっと見てみますね」


 田上くんに提案され、俺はステータスカードをポーチから取り出した。ステータスオープンと念じると、今現在のステータスがホログラムのように表示される。


────────────────────────────────

<基本情報>

名称 :馬原 賢人

天職 :賢者

レベル :3


体力 :278

魔力 :1900

攻撃力 :33

防御力 :22

敏捷 :19

幸運 :54


<スキル情報>

【反転する運命】SLv1(ユニークスキル・非活性)

効果 :???


【火属性魔法】SLv3

【水属性魔法】SLv1

【風属性魔法】SLv1

【地属性魔法】SLv1

【回復魔法】SLv1

【状態異常解除】SLv2

────────────────────────────────


 今のステータスはこんな感じだった。スライムを数十体狩ってレベル2の上昇である。期待はしていなかったが、防御力や敏捷などの上昇率は非常に低い。その代わり、魔力の伸びはかなり高かった。


「魔力以外のステータス上昇はイマイチですが、新しく地属性魔法を覚えましたね。後は、火属性魔法のスキルレベルが上がってます」

「あはは、魔法職のステータスは大体そんな感じですから大丈夫ですよ。ちなみにスキルレベルは、そのスキルの熟練度に応じて上昇します。使用していないスキルが成長していないのはそのためですね」


 なるほど。火属性魔法だけがレベルアップしている理由はそれか。もしかしたら火属性が効き辛い魔獣が出るかもしれないし、他の属性も万遍なく使おう。


(風属性で使える魔法は……【風刃ウィンドスラスト】か。水属性は【水球アクアボール】……これはちょっとスライムには効果が低そうだな)


 使用可能な魔法を参照するよう念じると、いくつかの魔法が頭に浮かんだ。

 ひとまず次からは【風刃ウィンドスラスト】を使う事にしよう。火属性と違って斬撃に近い性質だろうし、スライム核を正確に狙う練習にもなるだろう。


「ひとまず、魔法のチェックは済みました。残りの魔力も十分ですし、大丈夫そうです」

「わかりました。……由佳、出発だ。先行を頼む」


 田上くんの指示を受けて、三浦さんがはあいと返事を返した。



 その後もアシッドスライムを何度か狩りながら、順調に歩みを進める。しばらくして下層に降りる階段を発見した。


「ここより下層はトラップもあるから気を付けてね」


 階段を降りきったあたりで三浦さんが忠告してくれる。これまでの層にはトラップらしきものが存在しなかった。だが、ここからは魔獣だけでなく、罠にも警戒して進む必要がある。斥候スカウターの天職を持つ三浦さんが、本格的に活躍する場面だ。


「わかりました。注意して進みますね」

「じゃあ早速【罠探知】を──って、えっ!?」


 スキルを使います。恐らく三浦さんはそう言いかけたのだろう。だが、紡いだ言葉は驚愕と共にかき消された。


「ッ!? 由佳、どうした!?」

「……E級ダンジョンに【盗賊殺し】シーフスイーパーっ!? 嘘でしょ!?」


 彼女が叫んだ刹那、俺たちの足元に魔法陣が輝いた。ダンジョンらしい幻想的な光景ではあったが、そんな呑気な事を言える状況では無い事を悟っていた。

 光はさらに強まり、俺は眩しさのあまり目を閉じた。


「ここはどこだ……?」

 

 光が収まったことをまぶた越しに感じ取り、俺は恐る恐る目を開けた。壁や床の色は、これまで歩いてきたダンジョンの岩盤と相違はない。少し違うのは、かなり開けた空間だという事。そして周囲には、もぞもぞと蠢く影。


「やられた……ッ! 【転移罠】だ。おまけにこの数──じゃないか!」


 これまで丁寧な口調で話していた田上くんだったが、今は素の口調が出ていた。

 余裕が無いのか、汗が彼の頬を伝う。

 そんな彼の双眸の先には──悍ましい数のスライムの群れがあった。

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