Ⅰ. 遺跡・史跡探訪編
「誰だ? ポリバケツを埋めたのは」―加茂岩倉遺跡(島根県)
一九九六年十月十四日、島根県
作業を中断してよく観ると、近くの
最終的に、入れ子式に埋められていた大小の銅鐸が三十九個発見され、二〇〇八年、国宝に指定されました。「バケツだと思ったら国宝だった」というわけですね。ところで、銅鐸のうちのいくつかは、発見時に重機によって破損したままです……(あわわわ・冷や汗)。
◇
島根県出雲市は、東西に長い島根県の東方、
『
その『出雲国風土記』によると、出雲国には約四百の神社があり、大国主神(
出雲独自の神話として「国引き神話」が採録されています。
*出雲国「国引き神話」
同様に、北の門の
こうして国引きを終えた八束水臣津野命は、
『出雲国風土記』では、出雲という国号の由来である「八雲立つ」と述べたのも、島根と名付けたのも、八束水臣津野命ということになっています。一方、『古事記』では須佐之男命とされています。
島根県東部~鳥取県の大山周辺の地図を観ながら「国引き神話」を読むと、その壮大さと地理的な関係に感嘆します。
このように『出雲国風土記』には、神話に基づく神社や地名が多く比定されていて、興味深いです。
*黄泉の国へ通じるとされる「
*
*
*
*火の神・
……などがあります。
◇
加茂岩倉遺跡は、雲南という地名にも表現されているごとく、出雲市の南方にあります。「岩倉」は、東西にのびる狭い谷の地名であり、この地の神社境内にある大岩に由来するとも、谷の出口にある高さ約四メートルの大岩から来ているとも伝えられています。「岩倉」は「
この谷を流れる川は、『出雲国風土記』では出雲大川―
銅鐸が発見されるまでは、谷沿いには小さな棚田がひろがり猪が走り、近くには牧場がある静かな山里でした。周囲には銅鐸以外に出土品はなく、古墳や集落跡もなく、当時ご存命だった考古学者の佐原真先生を始め多くの専門家が調査しましたが、山の頂上にも何もなかったそうです。
標高百四十メートルくらいの山の、けっこうな急斜面に、三十九個の銅鐸は二つの穴にまとめて埋められていました。うち十九組三十八個が入れ子式でした(本来は二十組四十個だったのかもしれませんが、小さいのが一つ足りません。もとからなかったのか未発見なのかは不明です)。外鐸の高さは約四十五センチメートル前後、中鐸は三十センチメートル程度の大きさです。紐をつけて吊るしたとされる
これまでにも他の地域で大量の銅鐸が発見されたことはありますが、一か所から発見されたものとしては最多で、入れ子式の埋納状態が調査できた貴重な遺跡です。
さらに、加茂岩倉銅鐸は本体に描かれた文様で有名になりました。
18号鐸:
23号鐸:二頭のシカ、四つ足獣(イノシシ?)、やや背を丸めた四足獣(イヌ? オオカミ?)の文あり。
35号鐸:トンボと四頭渦文、四足獣。
29号鐸:鈕に入墨をさした人面が鋳出されている。
10号鐸:鈕に横向きのカメの絵(ウミガメ?)
21号鐸、37号鐸:シカが浮き彫りで表現。
同一の鋳型(
出雲の別の場所からは吉野ヶ里遺跡から出土したのとそっくり同じ銅鐸が発見されていて、広範囲な交易のあった可能性がある一方、加茂岩倉銅鐸の18号・23号・35号鐸と、荒神谷遺跡から出土した三五八本の銅剣は、出雲産と考えられています。
何かの祭祀の跡だったのか、敵から隠す目的だったのか。埋納された理由は分かりません。
発掘状況を保存し、公園として整備されたガイダンスセンターは、松江高速道の加茂岩倉サービスエリアから、または国道五十四号線から訪れることができます。私が行ったときは真夏で、駐車場から人気のない山道を汗をかきながら結構歩き――何故か車止めは
現地には埋納坑が再現され、出土時の写真などが展示されています。実際の銅鐸はここにはなく、島根県立古代出雲歴史博物館に保管・常設展示されています。
加茂岩倉遺跡ガイダンス HP:https://kamo-iwakura.amebaownd.com/
島根県立古代出雲歴史博物館 HP:https://www.izm.ed.jp/#
参考図書:
「古代出雲の原像をさぐる―加茂岩倉遺跡」田中 義昭(新泉社)
「出雲国風土記―語り継がれる古代の出雲(企画展図録)」島根県立古代出雲歴史博物館・編(今井出版)
「出雲国風土記(全訳注)」荻原 千鶴(講談社学術文庫)
「古事記(全訳注)」次田 真幸(講談社学術文庫)
「解説 出雲国風土記」島根県古代文化センター・編(今井出版)
「出雲国風土記紀行」島根県古代文化センター・編(山陰中央新報社)
「銅鐸の中の動物たち」荒神谷博物館・編(報光社)
おまけ:
文中、神々のお名前(神名)が「〜神」であったり「〜
『古事記』では、神は顕れたときにはただ「神」ですが、何か使命を帯びると「命」となります。
『日本書紀』では、天津神と天皇の祖先の神々を「尊」とし、その他の神々(国津神)を「命」と表記するとしています。
まあしかし、厳密には「命」も「尊」も使い分けはあまりされていません。
神社などでは、御祭神として神徳を発揮するときは「神」を。神話などで人間っぽい失敗などをなさる場合は「命」という敬称をつけている場合が多いようです。
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