第3話 ケンタロンランペイジ その1
「あんだがケンタロンね! この村から、わたしたちは脱出して王都に向かう、
おびえた羊亭に飛び込み、勢いで暴れる長い髪が収まるよりも早くナベルタは
「
一番奥、特別あつらえのソファーに深く座る巨漢の声が低く響いた。
「わたしの攻撃にびっくりするぞ」
フーラから引き継いだ体は、その後のナベルタの改変カスタムにより二回り小さくなり、中学生くらいの雰囲気になっている。ケンタロンとの体格差は3倍を超えそうだ。
「いでよ! 聖なるヘルメットそして盾!【ホーリーワード:サモンアルマイトヘルムアンドシールド】」
どちらかというと和風よりな印を、しなやかな指で空に切ると、真鍮色を少し薄くしたように輝く蓋付きの鍋が現出し、くるくると回転しながら鍋は頭へと被さりヘルメットとなり、蓋は左手に装着され円盾と化した。それらはもう一度キラッと輝き、小柄な体にフィットする。
「ちんちくりんじゃねーか」
酒場は失笑で満たされる。
「おい、お嬢ちゃん、なめているのか」
野太い声が響く。巨大な両刃斧を肩に掛け、ケンタロンは一瞬にしてその場を制した。堂々たる姿は小さな村であっても恐れられるだけはあり、
「えっなんでさ! あんちゃん元々騎士だったんでしょ? だからアームズマンの敬意をもって完全装備で臨む。このナベルタ、あんたを騎士ケンタロンとしてやっつける」
鈍く輝く丸盾を胸に、ショートソードを天にかざす。その動作は鋭く完璧である。ナベルタの所作はヘルメットが鍋で円盾は鍋蓋でも、ケンタロンにとっては騎士の敬礼で、特別な物だった。表情が一変する。
「
激しい音と共に重量級の両刃斧が酒場のテーブルにたたきつけられ、突き刺さり、そしてバラバラに破壊する。
もはやこの場には騎士ナベルタを笑う者は一人もいなかった。おびえた羊亭のなかで。一番若い酒樽番の少年が、カウンターから大剣取り出し、ケンタロンにひざまずくと、周りの男達は一様に立ち上がり敬礼の姿勢になった。
「貴殿の称号は?」
「ね、なんだっけ……?」
「……エコー・オブ・ロストブレイズ……
「えー、エコー…」
「……ロストブレイズ」
「何をこそこそとやっている、誰かいるのか?」
「我が名はナベルタ! エコー・オブ・ロストブレイズ、
「……あっぶねぇ、ばれそうになった……ナベルタ後は頼んだ、作戦どおりに。広場の井戸で待つ……」
―ランペイジ三日前
「ナベルタ、この村は
村の周囲は草木は雑に刈りとられ草原になっていて、等間隔に設置されている物見櫓から発見されずに脱出するのは不可能だ。怠惰そうに見えるケンタロンの手下達はその実、隙無く監視していて、かいくぐるのは難しいだろう。
二人はフーラの芋畑邸で作戦を練っており、村からの隠密的脱出は不可能であるという結論に至っていた。
「何とかこの村を脱出して王都に向かわないと、僕達がおかれている立場が解らない。もしこの世界が、アドベンチャラーズエンドの世界なら最初になにかしら説明があるはずなのに何もなかったし、記憶もない。もしかしたら何か異常があるのかも知れない」
「そう言えばそうね」
「転生前の神様の面接的なやつもなかったし」
「そっそれは……でも王都に行っても何か解るわけ?」
「ケンタロンに取り入って、奴の主人と繋がりを作りたい。エコーオブラストブレイズの勇者として」
「それって、ナベルタもなれるの?」
「そのなずなんだ。でも、旅立ち時に、豊富な二十五種類もの勇者アーキータイプから気に入った選択ができる、これは業界最多クラスなんだけど、僕もナベルタも何も選ばれていない。神の面接的なのも無かったし」
「面接がそんなに大事なことだったなんて。でも二十五種類もあるなんてすごいね」
「初期実装は六種類なんだけどね。エコーオブラストブレイズは、終末を知るもの、残光よりの使者。勇者の権能は未来予知。難易度イージーの選択だし、ケンタロンが仕える主である
「ただ?……ごくり」
「ケンタロンに我々がエコーオブラストブレイズの勇者であると納得させられるだろうか……僕はある程度事情を知っている、それは勇者の
「こんなに何度も何度も言われるなんて、面接忘れてほんと失敗した。魔犬との戦いぶり見てくれたでしょ? わたしが険の腕前を見せつけてやろうじゃないのさ! もう、そうするしかなさそうじゃない」
「勇者として臨むとなるとケンタロンは最高の力で向かってくるはずだ、ナベルタは相当強いけど最高の動きをする村娘でしかないし……でもやはり始まりに異変があるなら結果にも異変が起こるはずだ。それに……」
「ぐぬぬ、そ、それに……」
「……心配していても仕方が無い、僕はナベルタの力量を信じるよ」
「そこは! 転生前の神様の面接的なやつもなかったし。でしょうが!」
勇者コンビ結成の瞬間であった。
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