第696話 会場に到着します

「ふぅ……。会場までは無事に到着できました~っと……」


 ほっと息をつきながらそう呟くのはミナトである。


「そうね。王都内におかしな気配はなかったわ」

わたくしも周囲に不快な気配は感じませんでした~」


 ミナトにそう返すのはシャーロットとナタリア。オリヴィアとは王城から別行動ということになった。ルガリア王国の宰相であるハウレットさんから『捕えた東方魔聖教会連合に与する男の監視』をお願い……、というか懇願されたミナトがオリヴィアを残したのである。王城から少し離れたところにそういった者を留置し尋問する建物があるのだとか……。


 オリヴィアは普段の姿は美しい銀髪と褐色の肌を湛えた中性的な魅力あふれるスレンダー美人であるが、その真の姿は伝説の魔物とされるフェンリルだ。そしてミナトのスキルである【眷属魔法】眷属強化マックスオーバードライブでさらに圧倒的なほど格上の存在へと進化している。彼女の目を掻い潜って捕えた者に何かをすることなど不可能なことなのだ。


 ちなみにピエール本体には先行して会場に向かってもらった。


 そのようなこともありつつルガリア王家一行は王城を出立。移動する王都内での襲撃などは無く、一行は無事にティジェス侯爵家のゴーレムが披露される会場へと到着したことでミナトが冒頭の台詞を呟いたのである。


 会場があるのは王都の南西、城壁の外側に隣接するように建てられ住民からは闘技場と呼ばれている施設。


 数百年前までは実際に奴隷や剣闘士を闘わせていた闘技場であったのだが、現在は改修され騎士団の訓練や王都内ではできない危険を伴う実験、魔法の披露などが行われる施設となっている。その使用権は広く与えられていて時間と予算が許せば基本的に誰でも使用可能な施設である。


 夏祭りの期間、王城や貴族などが主催する魔法研究の発表や、お抱えの騎士、冒険者、魔導師を競わせる模擬戦などが催されており、それは一般にも広く公開されていた。


 そんな会場はすでにつめかけた観客でいっぱいらしく外からでも場内の熱気を感じるミナト。


 この催しに参加するのは、王族として国王マティアス=レメディオス=フォン=ルガリア、王妃アネット=セレスティーヌ=フォン=ルガリア、第一王女であるマリアンヌ=ヴィルジニー=フォン=ルガリアの三人。王家の公式な来賓として同行者としてマリアンヌの婚約者であるジョーナス=イグリシアス=ミュロンド、星みの方々のリーダーであるマリアベル、さらに第一王女マリアンヌの友人という形でミオという三人。


 そんな合計六人が観覧席へと移動する。移動の最中は王族三人の周囲はカーラ=ベオーザを中心に騎士達が護衛として付く。王家が招いた客人という立場のジョーナス、マリアベル、ミオの三人には騎士に加えて……、その騎士の中にはデボラがいるのだが……、さらにミナト、シャーロット、ナタリアが続いている。


 デボラはカーラ=ベオーザが副団長を務める麗水騎士団の騎士服、ミナト、シャーロット、ナタリアの三人も王城で働く武官が纏う一般的な服装に着替えている。青を基調とした麗水騎士団の騎士服とは異なり、ミナト、シャーロット、ナタリアは白と黒を使った簡単なデザインである。ミナトとナタリアは剣士を思わせるシンプルなパンツスタイル、シャーロットは魔導士であることを強調するためなのかパンツスタイルの上にローブを纏っている。


 観覧席が近づくにつれて聞こえてくる歓声が大きくなる。会場内はかなりの盛り上がりを見せているようだ。


 ミナトは移動中にも周囲の気配に気を配っている。索敵能力には自信があるミナト。周囲に不届きな考えを持っているものはいないようだが、向かう高位貴族たちの観覧席からは魔力の反応を感知する。どうやら貴重な才能とされる魔法を使える者が観覧席にはいるらしい。それも複数……。そして、


「国王陛下のおなりです!」


 多くの思惑を含みつつ、そしていくつかの策略は破られつつ、ティジェス侯爵家による新型ゴーレムの披露が始まろうとしていた。

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