第641話 ミナトの実力

 咄嗟の判断で漆黒の鎖を駆り禁忌の言葉を口にした若者を投げ飛ばすことで命を救ったミナト。


 ミナトとしては命を救ったことに感謝してほしいくらいの事態であったが周囲の反応は少し違う。


「なんなの……、F級冒険者って言ってたじゃない!魔法も何かのトリックだって……」

「重力魔法を行使し続けながら闇魔法を展開した……?」

「嘘だ……、嘘に決まっている……」

「夢だ……、これはきっと悪い夢なんだ……」


 そんな呟きが聞こえてくる。


 ミナトによる【重力魔法】この世界の重力をフォース・オブ・プラネットは未だ絶賛展開中だ。


 もはや重力に抗うこともできず地面に突っ伏している若者達は視線の端で捉えた光景……、重力魔法で押し潰している相手を極めて有機的な動きをする漆黒の鎖で拘束、地面から引き剥がし、遠くの壁へと投げ飛ばすミナトの姿に驚愕することしかできなかった。


「えっと……、まだ続けます?」


 ちらりと審判役のマリアベルへと視線を送ると彼女は首を振って右手をミナトへ向けた。


「勝者、ミナト殿!」


 そこでミナトは魔法を解除する。強大な重力下に置かれていた若者達は動くこともできずに放心している。壁に投げ飛ばされた男は里の者達が助けているようだ。


「ミナト、お疲れさま!」


 とびっきりの笑顔と共にシャーロットがそう声をかけてくる。


「さすがはマスター。見事な魔法でした〜」

「素晴らしい技術を拝見することができ光栄です」

「カッコヨカッタデス〜」


 ナタリア、オリヴィア、そしてなぜか幼女モードになっているピエールもそう声をかけてくれる。


 ミナトは彼女たちに笑顔で頷くと美人のエルフ向き直る。


「シャーロット、あれはマズかったんじゃない?」


「なによ!仕方ないじゃない!あんなふうにハッキリと言葉に出されるなんてダンジョンにいた東方魔導連のローブを纏ったアイツ以来なのよ?」


 頬を膨らませつつそう返してくるシャーロット。もの凄く綺麗で可愛らしいのだがミナトはグッと堪えて会話を続ける。


「でもアレって日照りの街シシタス・ウルプスだったよね?流石に護衛対象の里でその里の住人を滅ぼすのはマズイと思いますケド……」


 そうミナトが漆黒の鎖で男を投げ飛ばした際、投げ飛ばす直前まで男が蹲っていた場所に水塊が着弾していた。込められ魔力からアレが日照りの街シシタス・ウルプスであったと認識しているミナト。


 シャーロットによると日照りの街シシタス・ウルプスは殺戮系とも称される対生物用に開発された伝説の水魔法であるという。


 シャーロットの禁忌の名を呼んだ『ダンジョンにいた東方魔導連のローブを纏ったアイツ』はその水塊をまともに受けた。その結果、見えない何らかの力によってぎゅっと引き絞られるかのような状態になり、全身が古木の肌のような色と質感へと変貌し、最後は五体は引き千切れ砂となって虚空に散った。


 そのことをミナトが指摘すると、


「そ、そこまでの魔力は込めていないわ!ただちょっとしわしわになって数ヶ月……、いや数年かしら……、戻らない状態になるだけよ!」


「それも怖いけどね?」


「ミナトが助けることは分かっていたわ。結果としてこの里の全員がミナトの実力を知ったのだからよかったんじゃない?」


「全員?」


「そうよ?ほら!」


 シャーロットが指し示す方へと視線を向けるミナト。そこには大勢の里の者達が恐怖に駆られた瞳でこちらを見ている姿があった。


「魔王だ……」


 どこからともなく漏れ聞こえるそんな呟きにミナトは心の中で否定しつつがっくりと項垂れるのであった。

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