第619話 みんなで夕食

「この料理って具は野菜だけよね?不思議なくらい美味しいわ!そして何よりワインに合う!」


「うむ。ラタトゥイユといったか?調理した野菜がこれほどまでに豊かな味を創り出すとは……。やはり人族の発想力は侮れん!」


「ん。トマトが最高!ナスも美味しい!酸味のある白ワインがすすむ!」


「あらあら〜、とても豊かな味わいですね〜。夏のお野菜って美味しいですね〜」


 シャーロット、デボラ、ミオ、ナタリアはラタトゥイユがいたく気に入ったようで白ワインと共に旺盛な食欲を見せている。


 とても大きな琺瑯の鍋に相当な量を作ったはずのラタトゥイユだがどうやら残ることはないらしい。冷蔵して冷たくなった明日の味わいも格別なのだがこれは取りおきしないと実現できない可能性が高い。


『冷たくなった翌朝の味わいは諦めきれない。そういえば夏野菜がいっぱいなんだから天ぷらって道もあった。茄子とかズッキーニの天ぷら美味しいよね。あ……、天つゆの材料が……、味醂と醤油……、醤油は依頼の報酬に期待しよ……。そうそう!茄子の天ぷらといったらこれまた翌朝の冷たくなったやつを醤油とかソースで……、天つゆで軽く煮ても美味しいんだよね。これぞ究極だけど裏通りの味!』


 食事を楽しむ彼女たちを前にミナトがそんなことを考えている傍で、


「これがラタトゥイユですか……。シンプルですが美味しい……、ワインにも合う……、これは素晴らしい料理です。是非お城でも採用しましょう!」


 そう言っているのは執事のような衣服を纏っているオリヴィアである。最近の彼女はその佇まいからか、ミナトの執事のような仕事をしており、ミナトの城の管理も基本的にはオリヴィアが中心となっている。お城……、というかミナトたちを一つの家とした時のを取り仕切る者といったところだろうか。特にお城の管理に関してはデボラ、ミオ、ナタリアといったドラゴンたちも、シャーロットでさえももオリヴィアの方針には従っていた。


『この貝はハジメテ食べましタ〜。ぷりぷりデス〜、美味しいデス〜、もっとほしいデス〜』


 白ワイン煮となったムール貝を殻ごとその身体に取り込んで先ほど念話を飛ばしているのはピエールである。さすがは伝説と呼ばれるエンシェントスライムといったところか、スライム形態の彼女にムール貝の殻関係ないらしい。ただ美味しかったことは間違いないようでその虹色の身体が嬉しそうにふるふると揺れている。


「貝か……、このように食すのは初めてだが美味いものだ。それにこれと白ワインの組み合わせは見事という言葉に尽きる。美味い!これは止まらんぞ!?」


「この貝は見覚えがあります。遠い昔に食した記憶が……。しかしここまで美味しかったという記憶はありません。このような美味な貝であったとは……。やはり人の身体はいいですね。このように味覚があり料理を味わう。まさに至福。マスターにテイムされて本当によかったです」


 ピエールに加えロビンとフィンもムール貝を気に入ったらしい。ムール貝は人数分を皿に分けて盛り付けたはずなのだが、彼女たちの皿には当初の倍以上のムール貝が山を作っている。


『ムール貝の旨味たっぷりの生クリームソースをお湯で伸ばせば美味しいスープになるんだよね……。チャウダー的な?ずっとフレンチなのにここでアメリカ料理登場な感じ……?』


 こちらも旺盛な食欲を見せるピエール、ロビン、フィンへと視線を送りつつ、このあとスープも作ろうと決めるミナトである。


「いやー、遅れでまりました。これはお土産……、今日取れだトマトだ。マルシェでチーズも買ってぎだ。食ってけせ」


 そしてファーマーさんがトマトとモッツァレラに酷似したチーズと共に登場する。塩もオリーブオイルもあるので食材たちはたちどころにカプレーゼへとその姿を変えることになったのは言うまでもない。これも白ワインに最適だ。


 そうしてミナトたちは今夜の夕食を大いに楽しむこととなる。


 少しして……、


「ねえ、ミナト?今回の依頼はどのメンバーでするの?」


 夕食が一段落したところでかけられたシャーロットの言葉にミナトは少し考えるのであった。

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