第594話 改めてカーラは問う

 ロビンとファーマーさんとフィンとその部下たちの説明を終えたミナト。


 未だ再起動ができていない幾人かの騎士やポーターが地面に転がっているが、一応ここからは食後の自由なご歓談の時間ということになる。


 意識不明の者達がいるが、本日は騎士達を労うということでフィンの部下たちが夜の警備を請け負ってくれたため、今宵の野営は全員がゆっくりできる夜というわけだ。ちなみにフィンの部下たちと共にピエールの分裂体も配備されているのでその守りは鉄壁を超えて完璧である。


 まあ、ご歓談が自由とはいえ先程までのミナトの話とロビンやフィンの姿を目の当たりにした後で彼女達に気軽に話しかけられる者はほぼいなかった。


 例外は……、執事兼暗殺者のガラトナさんは平然とした様子で、対照的に顔色の悪い第三王子に何やら説明している。おそらくルガリア王国やウッドヴィル公爵家のミナトたちへの接し方の基本を教えているのかもしれない。


 もう一人の例外がこちらにも……、ロビンにフィンを紹介してもらいミオを伴って四人でこれからの冒険者訓練メニューについて談笑しているA級冒険者のティーニュである。


『フィンも冒険者の訓練に部下を連れて参加するみたいだ……。部下を連れて……。どうか冒険者達の心が壊れませんように……、それと先に言っておきます。なんか……、ごめん……』


 ミオ、ロビン、フィン、ティーニュの会話を聞き心の中でそう呟いて手を合わせ、これから訓練に参加する冒険者達に前もって謝罪するミナトであった。


 ミナトの傍ではシャーロットとデボラが寛いだ様子で王都の市場マルシェで買ってきたローストアーモンドに酷似したナッツを頬張っている。一応は護衛依頼の遂行中なので酒は用意してはいないのだが、単にナッツを頬張る様子だけで百人いたら百人が振り返るほど彼女たちの美しさは際立っていた。


 そしてそんなシャーロットやデボラをナンパすることが死に直結することを理解している優秀なウッドヴィル公爵家の関係者達はそのような愚は犯さない。


 すると傍のそんな二人と笑顔で過ごしているミナトの横にやってきた者が一人。カーラ=ベオーザである。


「ミナト殿、なかなかに衝撃的なご説明であった」


 そう言いつつミナトの横に腰を下ろすカーラ=ベオーザ。


「私も騎士であるから二千年前に魔王軍を離反し人族と亜人に与した誇り高き首無し騎士デュラハンの伝説は聞いたことがある。それにルガリア王国で幼少期を過ごした者なら心優しきエルダーリッチの絵本に出会わぬわけがない……」


 そこでいったん言葉を切ったカーラ=ベオーザは小さなため息をついた。


「フィン殿たちのことだが……」


 ミナトの額から冷や汗が滲む。


「たしか……、バウマン辺境伯への報告では、神殿騎士ブランディルによる解呪の魔法で一部の封印が解け瘴気が『不死者達の霊廟』の周囲一帯に瘴気が立ち込めたが、その瘴気に飲まれて神殿騎士ブランディルも作り物デコイの魔法で動かしていた魔道具の人形も消滅、封印が解かれることはなかった……、そういう報告だったと思ったのだが……?」


 滲んだ汗が玉となって流れることを感じるミナト。


「そ、そうでしたっけ?あは、あはは……」


 明後日の方向向いてそう答えるミナトに今度ははっきりとため息をつくカーラ=ベオーザ。バウマン辺境伯への不敬を問いたかったのかもしれないがそのことには触れず、


「ふぅ……、おそらくフィン殿のことは部下殿達の存在も含めてウッドヴィル公爵家からバウマン辺境伯家に伝わるが……」


 そんなことを言うと、


「フィンたちが仲間に加わることなんてロビンやファーマーのことを考えたら今更な話よ。ルガリア王家も二大公爵家も私たちへの対応を変えないわ。そうでしょ?」


 シャーロットの言葉にカーラ=ベオーザは頷いて、


「私もそう考えます。そうなのですが個人的に……、あくまで個人的なこととして頂きたいのですが……、私もウッドヴィル公爵家の騎士を束ねる者の端くれ……、ミナト殿に改めてお伺いしたいことがあるのです」


 改まった丁寧な口調と共に真剣な表情でそう言うカーラ=ベオーザにミナトが視線を送る。


「私に答えられることでしたら……?」


 それを聞いて意を決したカーラは、


「ミナト殿はこの時代の魔王なのでしょうか?」


 丁寧な口調でそんな質問をぶつけるのであった。

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