第559話 帝都グロスアークとミナト一行
『なんなんだこの街?』
それが帝都グロスアークの第三地区に到着したミナトの正直な心の声であった。
まだ時刻はおそらく正午過ぎ、ルガリア王国の王都であれば昼食を求める住民が街の各所に溢れ賑わいをみせる時間帯である。そんなルガリア王国の王都とはまさに対照的だったのが帝都グロスアークの第三地区。帝都グロスアークの第三地区は静寂に包まれていると表現できるくらい人通りが少なかった。行き交う僅かな住民の表情も暗い。
そんな第三地区の様子に驚いているミナトの側にA級冒険者のティーニュが寄ってくる。
「帝都の第三地区に住んでいる住民はバルトロス教において最も位が低いとされる者達です。彼等はバルトロス教が崇める神の祝福を得るための修行という形で貧しく厳しい生活を送っています。食事の回数や労働時間を厳しく管理されているはずです」
ミナトは僅かに顔を顰める。
『バルトロス教の神は祝福としてスキルとかを与えるって話だった……。シャーロットによるとそれって嘘だってことで……。信者を生かさず殺さず搾取する……。そして時々、サクラとして神の祝福を受けた住民が出るんだろうな』
そう考えて改めて街並みを確認する。
『ファナザの街と同じだ。もし洗脳されるようにこの生活が本当に神の祝福に繋がるって住民が信じていたらおれ達が何を言っても聞く耳は持たない』
そしてほんの少しだけ視線を動かした。建物の影に潜む者の存在を見逃すミナトではない。
『すごい数の神殿騎士だ。これが普通なのかそれともおれ達が来たからなのか……?』
ミナトの索敵能力に多数の神殿騎士らしき者が引っかかった。どうやらかなりの数が配置されているらしい。
『この数はちょっと多いかもしれないわね。ま、私たちには関係ないけど……』
『うむ。我らを逃さないつもりかもしれぬが、どうやら燃やされたいらしい……』
『ん。全部まとめて氷漬け!』
シャーロット、デボラ、ミオが好戦的な笑みを浮かべ、
『今のうちに溶かしまスカ〜?』
既に第三地区を掌握したといって差し支えないくらいに分裂体をばら撒いたピエールもそう言ってくる。
『待って!みんなストップ!せめて第三王子のジョーナスさんと合流するまで待って!』
とりあえずそう言って皆を止めるミナト。しかし第三王子と合流した後なら何をやっても問題ないような言い方になっているところを見るとミナトも随分と不快感を覚えているようだったりする。
そんな念話を交わしつつ一行は歩みを進め、ミナトは周囲からの視線が途切れるのを感じた瞬間、
『シャーロット、デボラ、ミオ』
その念話だけで全てを察した三人の姿消えた。しかし一行の誰もそのことを指摘しない。
現在、右腕にシャーロット、左腕にデボラ、背中にはミオがくっついている。しかし【闇魔法】
これは第二地区で行われる検査対策として、事前にミナトがカーラ=ベオーザ達と取り決めた対応だ。
A級冒険者であるティーニュならば高位の神官に誘われてもなんとかなる。A級冒険者の地位と信頼はそれほどまでに高い。だがルガリア王家がどれほど畏怖しても形式上はF級冒険者のシャーロットたちはファナザの街と同じトラブルが起きる可能性が高い。今回は
第三地区に留まる騎士やポーター達と別れたウッドヴィル公爵家一行は無事に第二地区の検査を突破し、さらにこの国の中枢がある第一地区へと向かう。そして第三地区に残った者達の足元にもピエールの分裂体がしっかりと潜んでいる。これで彼等に危害を加えることは実質不可能であるといってよい。
『第二地区が長閑で平和で住民が笑顔って……、なんだろうこの強烈な不快感……』
ルガリア王国の王都ほどではないが普通に賑わう第二地区の様子に顔を顰めつつ、第三地区と同様に分裂体をばら撒くように指示を出すミナト。
大した時間もかからず第二地区もピエールの分裂体により秘密裏に埋め尽くされた。第三地区と同様に第二地区も既にミナトの掌の上である。
そんなことした後、シャーロット達の姿を消したままミナトはとうとう第一地区に入った。検査は不自然と言っていいほどに簡単に通ることができたのである。
目的地は第一地区にある帝都グロスアークの象徴でもある巨大な教会らしき建物。この国では最高権力者は王城ではなくこの建物にいるのだとか……。
ちなみに当然のごとく第一地区もピエールの分裂体でいっぱいになっている。
「そなたがウッドヴィル家のカーラ殿か……。ふん……、この書状に書かれていた日時の通りに到着できたと……」
目的地である教会らしき建物に到着した一行をそんな見下すような言葉で迎えたのはファナザの街を統治するヒムリーク枢機卿と同じ神官服を纏った痩せぎすの男であった。
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