第557話 帝都グロスアークへ

 ウッドヴィル公爵家一行による神聖帝国ミュロンドの帝都グロスアークへの道程は滞りなく進み……、などということはなくて……。


「確かに王都のギルドで噂されているようなシャーロット殿達の対応をファナザの街を統括する立場であるヒムリーク枢機卿へ行ったのであれば宣戦布告をするようなもの……。それに比べれば……?それに我らへと辿れる証拠などない。いやいやしかし……、でも確かに……」


 シャーロットたちが姿を現してから野営地に到着するまでの間、複雑な表情でぶつぶつとそう繰り返していたカーラ=ベオーザ。


 シャーロットたちがヒムリーク枢機卿に贈ったシャーロット、デボラ、ミオを模した人形はちょっとした会話なら受け答えもしてくれる非常に美しいオブジェである。


 しかしシャーロットによると、その者は凄まじい雷撃の餌食になるとのことである。


 そんなカーラ=ベオーザに同調したのか騎士達の表情も優れなかったためミナトは晩御飯にナポリタンを振る舞った。元気に成るようにバター多めの特別製である。カクテルや他のお酒にしなかったのは周囲を警戒する騎士達に配慮したからだ。ミナトやシャーロットたちがいれば何も問題はないのだが名誉ある騎士の顔を潰すことをミナトはよしとしなかったのである。


『王都に戻ったら騎士さん達もBarに来てくれるといいけど……』


 そう思いつつとりあえず美味しい食事を提供したミナト。その効果なのか食後、落ち着いて腹を括ったカーラ=ベオーザの結論は、


「ジョーナス王子を迎えたら迅速にルガリア王国へと帰還することにする!」


 と決まった。その間、シャーロットから、


「ギルドで流れている私たちの噂?ええ、基本全部真実でいいと思うわ」


 と聞かされて驚愕もしていたがその辺りはなんとか乗り越えたようである。ちなみにギルドで流れている噂とは、『ミナトに絡むと命は助かるがその周囲の美女に絡むと存在そのものが危うくなるからまだこの世界にいたいのであれば絶対に手を出してはいけない』といった感じの噂である。


 そんな一夜の出来事はあったがウッドヴィル公爵家の一行は帝都グロスアークを望む丘の上へと到着する。


 その街並みを視界に捉えてミナトは首を傾げてみせる。


「大きい街だ……。でも王都やヴェスタニアから感じる人々の騒めきとか……、活気を感じないような……?」


「そうね。この時間帯の王都ならマルシェや大通りが多くの住民で賑わっていてもおかしくないわ」

「うむ。ヴェスタニアも活気があった」

「ん。人通りが少ない?」


 シャーロット、デボラ、ミオもミナトと似た印象を受けているようだ。


「おそらくあまり愉快ではない光景を見ることになるかと思います」


 フードを目深に被ったティーニュがそう呟いた。


「え?それって……?」


 ミナトが聞き返そうとするが、


「皆の者!これよりグロスアークに入る。国境の街ファナザ以上に帝都はバルトロス教の管理下にある。行動は慎重にな!」


 カーラ=ベオーザの言葉に一抹の不安を覚えるミナト。


 そしてミナトたちは気づいていなかった。国境の街ファナザから帝都グロスアークへと至る街道はウッドヴィル公爵家一行が使用した街道だけではない。高位のバルトロス教信者にのみ使用を許される安全な移動が可能となる街道があるのだ。そしてその街道を使用して見目麗しいエルフと少女の二人もまた同じタイミングで帝都グロスアークへと到着するのであった。

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