第446話 貴族の暗闘
既に王都には夜の帳が降りている。季節は冬であっても歓楽街からは今日も一日の終わりを楽しむ人々の喧騒が聞こえてくる。
しかしそんな王都でも網目状に張り巡らされた路地の中にはそんな喧騒とは無縁の場所も存在する。
王城を離れたザイオン=オーバスはある場所を目指し人目を避けつつそんな暗い路地裏を歩いている。あの場所を訪れるためにはいつもこうしているのだ。
冒険者ギルドを訪れたあたりから記憶が曖昧でよく覚えていないが、気がつけば王城の地下にある牢へと捕えられていた。
まさか自分が罪を犯したとされ捕まるなどとは想像もしていなかったザイオン。
ダンジョン『
牢の中で、取り調べではしっかりと申し開きをする決意を固めていると突然『嫌疑は晴れた』とのことで牢から出された。
安心しているザイオンの下に一人の騎士が言伝として『あの方がお会いになる』との言葉だけを残して去った。
そうしてザイオンはその言葉に従い王都の路地でその歩みを進めている。王城から出る際、一部で騒ぎがあったようだがそれを気にしている余裕はなかった。
そんな現在のザイオンには複数の位置から視線が注がれている。ルガリア王直轄でありタルボット公爵家が管理を任されいる王家の影と呼ばれる諜報、謀略、戦闘を専門にする特別な騎士達である。
ウッドヴィル公爵家が巻き込まれた騒動の時、ウッドヴィル公爵領にある領都アクアパレスへ向かう道中でミナトと戦ったのもこの者達だ。彼等は特殊な契約魔法で縛られており一切の私情を挟まず命令にのみ忠実に行動する。あの騒動の時は命令系統をタルボット家の長男ジャック=タルボットと次男サディアス=タルボットに掌握されたせいであのような行為を行ったが、現在は当主であるロナルドが命令系統を掌握し部隊の再編が行われ本来の姿を取り戻していた。
全てはルガリア王国における二大公爵家の一つでこの国の武官を取り纏める立場にあるスタンレー公爵タルボット家の現当主であるロナルド=タルボットから発案され、宰相ハウレット=フィルグレイの承認、そして国王であるマティアス=レメディオス=フォン=ルガリアが発令した作戦である。
ザイオンを牢から出したのも『あの方がお会いになる』という正直なところ賭けであったでっち上げの伝言をしたのも王家の影である騎士たちだ。
その作戦とは……、
一、ザイオンの背後では絶対に何者かが糸を引いている。だからザイオンには嫌疑は晴れたと牢から出し、偽の伝言であわよくば彼の背後にいる……、特に『
二、ザイオンの助命や減刑を求め王国法を蔑ろにするような貴族にはこの爆発と火災でザイオンが何者かの手引きで牢から脱獄したことにする。
三、脱走は無かったこととし王城の公式発表としては今回の爆発と火災は王城に勤める魔道具師による事故だと発表する。ザイオンの身代わりは
ということだった。
特に二と三に関しては……、
牢に入れられた時点のザイオンはまだ嫌疑をかけられた段階であり、貴族であれば取り調べの場で申し開きをするのが本来の形式であった。ところがザイオンは愚かにも脱走などという行為を行った。これはそんな愚か者を庇おうとした貴族たちの名誉を守ろうという王家の配慮である。
というシナリオを書き貴族たちを強烈に牽制する思惑があった。
ミナトたちがダンジョン『
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