第395話 本日、初めて会った初老の男性

「このダンジョンではいくつかの鉱石を採取できることが確認されている。そして最下層でミスリルとこの世にある深く青い輝石ブルー・ブルー・プラネットの鉱脈を発見したと……、さらに最下層にいるダンジョンの主は人族や亜人では絶対に斃せない魔物であったと……、これも真のことなのでしょうな……」


 そう呟く呟く常連さん……、ではなく、どう考えてもルガリア国王。世界最難関とされる『地のダンジョン』がよく知られてはいるがミスリルを採掘できるダンジョンや鉱山はこの大陸には数えるほどしか存在していない。そして魔力をよく通すミスリルは魔道具の製作において重要な素材である。そのためミスリルは高値で取引されていた。またこの世にある深く青い輝石ブルー・ブルー・プラネットも魔道具にも使われることがあるけど貴重な宝石の一種である。


 どちらの素材も王都に大きな利益をもたらすことが予想された。


「ええ。その報告に間違いはありません」


 そんな事項な事項をしれっと肯定するミナト。国王の御前とは思えない落ち着いた態度である。今日も【保有スキル】である泰然自若は絶好調だ。


【保有スキル】泰然自若:

 落ち着いて、どの様な事にも動じないさまを体現できるスキル。どのようなお客様が来店してもいつも通りの接客態度でおもてなしすることを可能にする。


「……そういうことだ。納得したか?」


 ミナトの返答を受けてそう言う国王の視線の先にいるのは本日、始めた会った初老の男性。先ほどから難しい顔をしている初老の男性だがミナトやシャーロットに向けられる現在の視線には恐怖の感情があるように思われる。


『結局、誰なんだろう?展開的にはこの国の宰相様とか……?それにおれ達って怖がられている?』

『ミナト。この人って多分……』


 そんなことを考えているミナトに何か言いたそうなシャーロット。


「私めはミナト殿ご一行のこといついてはウッドヴィル卿の報告でしか存じ上げなかったのですが……」


 初老の男性が複雑な表情でそう呟く。その身体は恐怖のためか少し震えている。


「紹介が遅れたな。この者はハウレット=フィルグレイ。この国で宰相を務めている。この国で我が最も信頼を置く者の一人だ。昨晩、冒険者ギルドの報告を読んでからこの難しい顔をしていてな。東方魔聖教会連合に関する報告については、王家の記録とウッドヴィル家、タルボット家がミナト殿の報告を保証したので渋々と納得したようだが、ミスリルやこの世にある深く青い輝石ブルー・ブルー・プラネットについてはどうにも信じることができなかったらしいので今日はここに連れてきたのだ」


 国王からの紹介にミナトは、


『おお!やっぱり宰相様だった!ということはこの国のナンバーツー的存在?』


 などと思っていたりする。


「先代国王様の代から宰相を務めておられて、現在のルガリア王国の繁栄はこの方の手腕によるところが大きいとされていますわ」


「儂等と同期じゃが、学問的には不利となることが多い平民という出自にも関わらず王都の最高学府を圧倒的な成績で卒業し文官として王城へと勤め、宰相まで上り詰めた男よ」


「学生時代は知恵者とはこの者のことを言うのだと思い知らされたものでな。この者を厚く登用したことこそが先代国王の最大の功績とされているのだ」


 ミリム=ウッドヴィル、モーレイン=ウッドヴィルとロナルド=タルボットという二大公爵家の面々がそう説明してくれた。


『優秀な宰相様キター!』


 これもまたラノベのテンプレ的存在である。無表情を装いつつ心の中では歓声を上げているミナトであった。


「こほん……、ミナト殿……、改めましてこの国で宰相を務めておりますハウレット=フィルグレイと申します。いろいろと言われておりますが私はこの国に仕える文官の一人と思って頂いて差し支えありません」


「えっと……、ミナトです」


 とりあえず挨拶を交わす二人。文官の一人と扱えと言われてもちょっと困ってしまうミナト。そして口調と纏う雰囲気にミナトはちょっと警戒してしまう。どう考えてもかなりの切れ者の印象しかない宰相様だ。


「先ほどは失礼しました。昨晩、冒険者ギルドの報告を読んだときは正直その内容を疑いましたが……、今は貴殿の報告に関して微塵の疑いもございません」


 そう言って頭を下げてくるこの国のナンバーツー。


「そ、それは……?」


 宰相様の言葉に戸惑うミナト。


「私は魔法に関する心得がございます。平静を装ってはいますがミナト殿やパーティメンバーの方々から感じる魔力に既に圧倒されております。モーリアンやロナルドの言葉を理解しているつもりでしたが、本日、この場に同席させて頂いたことで今更ながら正確に理解できました」


 どうやらミナトたちのことはウッドヴィル家、タルボット家からも聞いていたらしい。目の前でその存在を確認して二大公爵家からの話が眉唾ではないことを確信したのだろう。この場では口に出さないが第一王女のマリアンヌ=ヴィルジニー=フォン=ルガリアが持つ魔眼の治療についても知っている筈だ。


『ミナト……、多分、魔道具で巧妙に隠しているけどこの人の魔法レベルはなかなかなものよ……。ティーニュと同じくらいかしら……』


 シャーロットがそう補足してくれる。どうやらそのことを伝えたかったらしい。自身は文官と言っているがかなりの魔法の腕を持っているようだ。


「ミナト殿の報告を真実としてこの国によるあのダンジョンへの対応を考えなくてはいけませんね」


 こころの葛藤に折り合いをつけたのか、やっと笑顔を浮かべてそう言ってくれる宰相様。


「そうであれば私から提案があるわ」


 その言葉を発したシャーロットに全員の視線が集まるのであった。

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