第396話 美人のエルフは提案する

「このダンジョンはルガリア王国の直轄にすべきよ」


 そう断言する美人のエルフ。


「ルガリア王国ではそういった事例はありませんが、国が管理するダンジョンというものがないわけではありません。やはりミスリルやこの世にある深く青い輝石ブルー・ブルー・プラネットが採れることが?」


 ウッドヴィル公爵家の頭脳であるミリム=ウッドヴィルがシャーロットへと問いかける。


「問題なのはそういった貴重なものが第五階層で採れることにあるわ。この世にある深く青い輝石ブルー・ブルー・プラネットこそ主の部屋で採れるから簡単ではないのかもしれないけど、ミスリルは純度が少し低いけど普通に第五階層で採ることができる。そして第一階層から第五階層までに出現する魔物ははっきりいって弱い。冒険者の等級でいうならE級冒険者のパーティなら第五階層まで到達できる難易度よ。これでは冒険者だけでなく貴族や大商会の介入もありえるミスリルの争奪戦が起こってしまうわ」


 ここ以外のミスリルが採れるダンジョンは例外なく難易度が高いダンジョンだ。最も豊富にミスリルが埋蔵されているダンジョンが世界最難関の一つとされる『地のダンジョン』であることがその代表例である。


 王都近郊のダンジョンも東方魔聖教会連合に連なる者達の影響で転移して攻撃してくるデス・スパイダー系の魔物や禁忌の魔導生物であるアニムス・ギアガやそれを基にしたゴーレムがいたのだがミナトたちが一掃した。一応、ロビンを仲間にした後、ピエールに分裂体で確認してもらったのだが、E級冒険者によるパーティであれば斃せる魔物しか残っていなかったことは確認済みである。ダンジョンの主にロビンというどんでもなく突き抜け過ぎた存在がいるが、ロビンへの挑戦さえしなければあのダンジョンは超初心者向けダンジョンなのだ。


 このような簡単なダンジョンを普通に解放した場合、情報が広まればミスリルの争奪戦が起こるのは明らかである。


「だから私から提案する内容として先ずはあのダンジョンが王家の直轄であることを宣言する」


 シャーロットが右手の人差し指を立てて言う。


「そして第一階層から第四階層までは初心者用ダンジョンであるという内容をギルドが開示する。第一階層ではある程度の鉱石が採れるし第二階層以下では魔物との戦闘ができるし安価だけど魔物の素材が手に入る。初心者が経験を積むには十分な環境があると思うわ。冒険者ギルドで行っている初心者向けの講習に組み込めば安全に一定の金額を稼がせることができると思うのよ」


 シャーロットの説明に冒険者ギルドのカレンさんがニコニコ顔で頷いている。この内容はカレンさんの思惑と一致しているらしい。


『カレンさんって本当に受付嬢なのかな……?どうもかなりの影響力を持っているみたいなんだけど……』


 そんな考えが胸中をよぎるミナトだが、その瞬間に何やら不思議な寒気を感じたので口に出すのは止めておく。


「さらに第五階層へ降りる階段付近に騎士とか王家が冒険者ギルドに依頼を出して雇った冒険者とかを配置して無許可の進入を禁止する」


 シャーロットの提案が続く。


「これは明確にミスリルの争奪戦を防ぐことが目的ね。戦力に関しては気にしなくていいわ。第一王女や第二王女、それにウッドヴィル家の騎士であるカーラ=ベオーザからも報告が上がっていると思うけどあの時と同じすっっっごーーーーーく強いスライムに援護してもらう。だから仮に襲撃があっても犠牲者を出さずに相手を捕縛できことは保証するわよ?」


 その言葉に国王マティアス=レメディオス=フォン=ルガリア、宰相ハウレット=フィルグレイ、モーレイン=ウッドヴィル、ミリム=ウッドヴィル、ロナルド=タルボットといった五名の表情が強張こわばる。彼らは王家に伝わる儀式『王家の墓への祈り』に纏わる依頼の件で、ミナトが虹色のスライムを使って陰謀を企んだ騎士団や冒険者を無力化したことの報告は受けていた。そしてそのスライムがエンシェントスライムであるらしいということも……。


 エンシェントスライムは伝説級の魔物であり、不壊の存在として知られている。かつて人族や亜人が討伐しようとしたが酸弾による抵抗で甚大な被害を受けたことがあり、いくつかの国や種族にとってエンシェントスライムは禁忌の魔物とさえ言われる畏怖の対象だ。そんなスライムが王国のために協力してくれるという……。


「へ、陛下!つ、強いスライムという援護があるのは……、ひ、非常にっ!喜ばしいことではっ!?」


 気丈にも宰相であるハウレットが国王にそう告げるが動揺しているのか声の上擦りを抑えることは難しいようだ。


「う、うむ……、確かに……」


 国王も魔物のそれもエンシェントスライムからの援護という事実に戸惑いを隠せていない。エンシェントスライムが人族や亜人に協力するなどありえない話なのだ。


『正確にはピエールの分裂体だけどね……』


『余裕でス~。頑張りまス~』


 ミナトの心の呟きにピエールが念話を飛ばしてくる。この辺りの話も昨夜の内にピエールからは了承を貰っている。


「さらにさらに……」


 シャーロットの話には続きがあるらしい。


「第五階層でのミスリルとこの世にある深く青い輝石ブルー・ブルー・プラネットに関する採掘は王家の判断に任せるとして、第五階層の主はもの凄く強い首無し騎士デュラハンで私たちにとても協力的なの。だからそんな首無し騎士デュラハンに中級以上の冒険者の戦闘訓練をしてもらおうと思う。これで王都を拠点とする冒険者の実力を底上げすることができる。もちろん騎士に参加してもらっても構わないわ」


 その衝撃的な発言に国王以下この王国の重鎮たちが今度こそ絶句する。カレンさんだけはその笑顔を絶やしていなかった……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る