第364話 ミナトは事情を説明した
「ふーん……、新しいダンジョンができたってギルドで聞いて見に来たのね。興味が湧いて試しに第一層に潜ったら大したことはなかったと……。それで第二層の最初の部分だけを見て帰ろうと思ったら満身創痍の冒険者達がデス・スパイダーに襲われていたと……。そしてミナトは一人じゃ瀕死状態の冒険者達全員を護り切れないと判断して私たちを
一応、シャーロットはミナトを見下ろしつつも納得したっぽい表情をしてくれている。そこまで厳しく𠮟られる展開にはならなそうだとミナトは胸を撫で下ろす。
今のミナトはシャーロット、デボラ、ミオ、ナタリア、オリヴィアに囲まれて絶賛正座中な状況だ。俯きつつ精一杯の態度で反省の意志を示している。ちなみにピエールはミナトの
「うむ。デス・スパイダーなど人族や亜人にとっては脅威かもしれぬがマスターの相手ではない。マスター自身に危険はなかったが冒険者を護るために我らを
「ん!だがの部分がだいじ!」
デボラとミオがそう言いながらミナトを見下ろしている。その視線には非難の色が込められておりミナトは二人の目を見ないようにする。
「あらあら……、お二人ともそんなにマスターをいじめちゃダメですよ~?」
同じくミナトを笑顔で見下ろしながらナタリアがそんなことを言ってくる。しかしその肩に担がれている鉄塊……、もとい巨大な大剣には何故か戦意を感じてしまう。ナタリアも思うところがあるらしい。
「でも
続けてナタリアがそう言ってきた。
「ナタリアよ……、なんだかんだ言いながらそなたが核心を突いているではないか!?」
「ん!ボクが言いたかった!」
そんなナタリアにデボラとミオが抗議の声を上げる。どうやらデボラ、ミオ、ナタリアの三人はミナトが一人でダンジョンに潜ったことが気に障っているらしい。一人だと危ないと思ってくれたのか、一緒の連れて行って欲しかったのか……、ちょっと正座しているこの状況では聞けないミナト。
「私はマスターがご無事で、かつマスターのご命令通りに冒険者達を護ることができてよかったと思っています」
ミナトを見下ろすことなくオリヴィアが淡々とそう述べる。こちらは特に思うところはないらしい。ちょっとホッとするミナト。
「うむ。オリヴィアよ……、ちょっと物分かりが良すぎではないか?」
「ん。しれっと愛人ポジション!ちょっと納得いかない!」
「あらあら~?」
そう言う三人からほんの少し剣呑な気配が漏れ始めた。もう少しこれが強くなると殺気と表現されるのだが、
「いえ……、愛人ですし……」
しれっとそう言い放ってしまうオリヴィア。四人の視線が交錯する。世界の属性を統べるドラゴン三体を前にして一歩も引かないフェンリル。少し間違いがあれば世界が崩壊しそうな光景である。そして四人とも少々声が大きかった……。そのため……、
「おいおい……、ミナトさんの相手ってあのエルフの姉ちゃんじゃなかったのかよ?」
「いや……、ギルドであのダミアンを再起不能にした時は確かにエルフの姉ちゃん一人だったはずだ……」
「俺の推測だとエルフの姉ちゃんが第一夫人ってとこだな……、ギルドでもよく見る紅い髪の姉ちゃんと青い髪の嬢ちゃんが第二、第三夫人ってとこか?」
「あの嬢ちゃんが夫人だって?もしかしてロ……、モガモガ……」
「バカ野郎!聞こえたら殺されるぞ!?」
「とするとだ。あの茶色い髪の胸と尻がものすごい姉さんが第四夫人……?」
「ちっ!ハーレム野郎が!」
「助けて貰って悪いが……、モゲチマエバイインダ!」
「それにしてもよ……、聞こえてきたがあの執事みたいな兄ちゃん自分のこと愛人って言っていたぞ?」
「ってことはまさかのどっちもいけるってヤツなのか?」
先ほどまで瀕死の重傷を負っていた筈の冒険者達。ミオに回復され元気になったのかB級冒険者パーティの『
『同性の恋愛を否定する気は無いけど、おれは女性が好きだ!そしてオリヴィアは女の子だし、やろうと思えばケモミミとシッポも出せるし……、いやそれはあまり関係ないケド……、誤解は解きたいです……』
姿形は女性だが人族が一人もいないことと、ミオとピエールが幼女の姿をしていることは忘却の彼方に追いやりつつ正座しながらそんなことを考えているミナト。
「とりあえず状況は分かったし、ミナトも無事で特に問題ない状況だからこれ以上どうこう言うつもりはないわ。立っていいわよ?」
シャーロットからお許しが出たようなのでミナトはおずおずと立ち上がる。
「さてと……、ねえ!貴方達は確か『
シャーロットが『
「そ、そうですが……」
緊張で敬語になってしまっている。相手は自分たちが手も足も出なかったデス・スパイダーを瞬殺した者達なのだから無理もない。
「ここにいる冒険者達の中で一番階級が高いのが貴方達よね?皆をダンジョンの外まで連れて行ってあげて。そしてギルドにこのことを報告しなさい。魔力と気配を探ったけど第一層は冒険者で一杯だし変な魔物はいないから、第一層にいる冒険者にも第二層には潜らないように言ってあげて」
「お、おう……、わ、わかっ……、わかりました……」
思った以上に常識的な指示の内容に肩透かしを食らったような表情になるウィル。
「それと好き勝手言ってくれていたようだけど……、私がミナトの第一夫人だから!間違わないように!」
「うむ。我が第二夫人だ!」
「ん。ボクが第三夫人!」
「
「私はマスターの忠実なる僕であり愛人ですね。ちなみに私は女です……」
「ワタシが二人目の愛人でス~」
いきなりの宣言に絶句してその表情を強張らせるウィル。彼だけではない背後にいた助けられた冒険者達全員が固まってしまっている。
「もし……、私たちのくだらない噂なんてものを広めてくれようものなら……、分かっているわね?」
そうシャーロットが言うと、シャーロットだけでなくデボラ、ミオ、ナタリア、オリヴィア、そして
「ええシャーロット様!はいシャーロット様!きっとシャーロット様!」
ぱくぱくと口を動かしながら必死にそう答えるウィルと全力でその首を上下に動かすことで理解したことを表現する冒険者達。
『シャ、シャーロット……。ちょっとやり過ぎじゃない?』
『私たちだけじゃなくミナトの力も見せちゃったからね。力の説明をするつもりはないけど私たちの関係性くらいはきちんと知っていてほしいと思ったのよ。変な噂とか嫌じゃない?ま、最初が肝心ってやつね』
ミナトにそう念話で返しつつ片目を瞑ってみせるシャーロット。
「あはは……」
その様子を相変わらずとても美しいと思いながらも乾いた笑いしか出てこないミナトであった。
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