第245話 クラスFの展示

「次がクラスF……。これが最後かな?」


 上のクラスから順に出品された作品を鑑賞してきたミナトたち。彼らはクラスFのブースへとやってきた。


「魔道具は楽しかったけど、武具は……、なんか思っていたのと違ったのよね……」


 シャーロットがそんなことをこぼしている。どうやらシャーロットは人々の日常生活をよりよくするために造られた魔道具が好きらしい。


『ちょっとしたことで生活にいろどりを添えるような使い方が魔法には相応しいと私は思っているの』


 初めてシャーロットにあった時、彼女がそんなことを言っていたのを思い出したミナトである。確かにこれまで見てきた魔道具の作品はどれも人々の生活の質を向上することを目的としたものが多かったような気がした。


「うむ。武具に関しては大会への出品作であることが悪い方向に作用しているように感じたな。本来であればもっと実戦を意識した武具を作成すべきだと思うが、大会であるが故に展示して第三者の目に晒されることになり、さらには審査もされる。そうなると無理にでも独創性にこだわるるか、自身の技術を誇るための装飾などを施したくなるのだろう……。その気持ちは理解できるような気もするが、その誘惑を退けることができる職人を選別しているのかもしれぬな……」


 冷静に感想を述べてくるデボラ。彼女は武具についても興味深く鑑賞していた。どの作品も『あと少しの工夫で素晴らしくなるのに……』と残念そうにしてはいたが……。


「ん!クラスFも楽しみ!」


 ミオはそれほど武具にも魔道具にも興味を示していなかったように思うのだが、その表情はどこか楽しげで満足気である。彼女は彼女で楽しんでいるようだ。


 そうしてクラスF最初のブースを覗くミナトであるが、


「……どういうこと?」


 ミナトがそう呟いた。


 一際大きくスペースが取られたクラスF最初のブース。斥候、大盾使い、弓使い、僧侶、魔導士、そういった冒険者の装備一式のようなものが展示されている。だがそのブースの中央、恐らく剣士や槍使いのような攻物理撃の花形となる装備が置かれるはずの展示スペースだけ何も置かれていないのだった。


「おっ?アニキ達も来てくれたんだ!」


 そう声をかけてきたのはドワーフのケイヴォン。ミナトたちがここヴェスタニアまでの道中で請け負った護衛依頼における護衛対象の一人であり、妹のリーファンと共にこの大会にも出場している若手職人である。


「やあ、ケイヴォン!君たちの作品も後で見せてもらうよ?えっと……、ブースは……?」


「オイラ達のブースはあっちさ!」


 そう言ってケイヴォンが後方のブースを指差す。そこには作品とちょこんと椅子に座ったリーファン。こちらに気付くと立ち上がってペコリと頭を下げてくる。ミナトたちは笑顔で手を振りそれに応えた。


「ケイヴォン。このブースのあそこの空白は何なの?」


 そう問いかけるミナトにケイヴォンが、


「ああ。あれはゴウバルの作品が置かれる予定だったスペースだよ。あの連中はパーティ装備一式ってテーマで作品を造る計画だったみたいだけどあれではダメかもな……」


 そう教えてくれた。


「ゴウバル?ああ……、あのゴウバルね……」


「アニキも知っているのかい?何日か前の話だけどこの街の近くにある『カエルの大穴』っていうダンジョンから魔物が消えちゃったんだよ。踏破されたらしいんだけど、あそこは経験の浅い冒険者の貴重な狩場だから踏破する冒険者なんていないはずなんだ。だから本当に踏破されたのかダンジョンに何らかの異常が発生しているのか判断に困った冒険者ギルドが調査のために冒険者を派遣したら下層の奥で死にかけていたゴウバルが見つかったんだってさ!とんでもない重症だったけど身につけていた特殊な魔道具のお陰で奇跡的に命だけは助かったって聞いたな」


「な、なるほど……、ちなみに見つかったのは一人?」


 ケイヴォンは何かを勘違いしているようだがそれを訂正することをせずにミナトはとりあえずそう返す。


「オイラはそう聞いてる。でもあいつが護衛の冒険者を雇うこともしないでダンジョンに潜るかな……?」


 そう言って首を傾げるケイヴォン。


火球ファイア・ボールはそこまで速度のある魔法ではない……。距離もあったし大して狙いを定めたわけではない、さらには魔道具の助けがあったとはいえ我の火球ファイア・ボールから生還するとはなかなかにしぶといではないか……』


 好戦的な笑みを浮かべつつそんな念話を飛ばしてくるデボラ。慌ててそんなデボラを宥めるミナトである。


「ま、そんなことより大会を楽しんでいってくれ!あとでオイラ達の作品を見て行ってくれよな!」


 そう言ってケイヴォンは手を振りつつ自分のブースへと戻って行く。


「ケイヴォンの言う通り他の作品を見ながら行くとしますか……?」


 笑顔でそう言ったミナトがほんの一瞬動きを止めた。


『ミナト!』


『うむ。マスター!』


『ん。』


 三人も気付いたらしい。それぞれが念話を飛ばしてくる。ミナト、シャーロット、デボラ、ミオの四人は魔法を扱うことに関しては全員が世界屈指の実力者である。そんな彼らが明らかに自分達への敵意を覗かせた魔力を感知したのだ。


『こんなところで派手に攻撃なんてしないと思うから、とりあえずは様子を見ながら鑑賞を続けるとしようか?』


 三人の美女に念話でそう伝えてミナトたちの作品鑑賞は継続されるのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る