第246話 一振りの長剣

「これは……?」


 ミナトの目の前にあるのは一本のメイス。素材は鉄のようだが少しだけ青みがかかっている。それ以外にこれといった特徴は認められないがミナトはそのメイスから目が離せなかった。


 ここはケイヴォンとリーファンのブースである。このメイスは二人の合作ということになっている。安全上の規定から武具の説明は一般客にはできない。黙って作品の傍らに立っているケイヴォンとリーファンの表情は自信に満ち溢れていた。


「ふ~ん……。あの子たちかなり頑張ったみたいね……」


 感心した様子でシャーロットが言ってきた。デボラとミオは隣のブースにあった魔道具を熱心に見つめている。どうやら興味深い何かがあったらしい。


『シャーロット?あのメイスって……?』


 ミナトは念話で聞いてみる。


「このメイスは魔力……、この感じだと水属性の魔力ね……。水属性の魔力との親和性を持つメイスってところかしら?」


 シャーロットの言葉を聞いたケイヴォンが得意気に頷いている。説明はできないがちょっとしたリアクションくらいはセーフのようだ。


「メイスって槌矛つちほこだっけ……、魔力との親和性が高いってことは……、魔槌?あれ……?この世界には魔剣とかあるんだっけ……?」


 ついそんなことを口走ってしまう。


「ミナト?ミナトはまだ魔剣って見たことがなかったかしら?ここでは魔力に由来する性質を持った武具を魔導武具って呼んでいるわ。強力な魔導武具の中には特殊な効果を発動するものもあるけど、一般的にはこのメイスみたいに魔力との親和性を向上した武具のことを指すわね」


「それでこのメイスは水の魔力との親和性を向上させたメイスってこと?」


「ええ。そしてこのメイスは水属性に限定しているけど魔力との親和性はかなり高いと思う。A級冒険者のティーニュってがいるでしょ?あのの戦闘スタイルにぴったりじゃない?」


 A級冒険者のティーニュは修道女のような衣服を纏い水属性の魔法攻撃と共にメイスを振り回して戦う、対人戦を得意とするバリバリ武闘派の女性冒険者である。大陸中を旅していたらしいが、最近はルガリア王国の王都に留まり、二大公爵家の一つであるウッドヴィル公爵家の護衛の仕事を中心に活動しているようだ。そしてちょくちょくミナトのBarに来てくれる常連でもある。彼女はワインが好みらしい。


 そんな彼女がこのメイスを持つと……、


「ティーニュさんがこのメイスを使うと最大限の威力を発揮する?」


「私はそう思うわ。今度お店に来たらこのメイスのことを教えてあげましょう!王都からヴェスタニアまではちょっと遠いけど、あの子たちの顧客になってくれるかもしれないわよ?」


「なるほど……」


 それは面白いと思うミナト。どうやらケイヴォンとリーファンは将来有望な職人らしい。ミナトは武器の専門家ではないが、このメイスは実用にも適う逸品であると感じるのだった。


 そうしてミナトたち一行は作品鑑賞を続ける……、


「これが最後かな……、やっとアイリスさんのブースだ……」


 申し込みが最後になったからなのかアイリスのブースが最後のブースとなっていた。


「おお!」


 そこで展示されている作品を見たミナトは思わず声を上げる。


「ふふ……、どうやら良い仕事ができたみたいね」


「うむ!見事!これは素晴らしい出来といえるだろう!」


「ん!とても良い作品!」


 シャーロット、デボラ、ミオの三人も一目見て笑顔となり高い評価を下す。そこには深い青を湛えた美しい刀身を誇る一振りの長剣が陳列されていた。


 そしてその傍らに立つドワーフの少女。ミナトたちを見つけたアイリスはペコリと頭を下げるのだった。

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