第183話 これからの相談をする

 ここはオルフォーレの街に近い森の奥。樹々の合間から差し込む陽の光は西に傾きかけている。


「ミナト!冗談はこのくらいにしてこれからのことよ!私たちはオリヴィアに関して調査をしに来たのよね?」


 シャーロットが真面目な表情になって言ってくる。国境にあるオルフォーレの街で冒険者ギルドのギルドマスターであるリコからの依頼はこの森に現れたという雷を纏った四足歩行の魔物の調査であった。とあるモンスターを狩るゲームでキリンを連想したミナトであるが、実際のところその魔物はフェンリルであった。


 そしてフェンリルは偶然見つけたサンクタス・アピス聖なるミツバチの巣を護るためにこの森に留まっていたというのが全貌である。そんなフェンリルはというとオリヴィアという名前を貰い執事風の衣服を纏ってミナトの傍らで静かに佇んでいる。


「ん~、とりあえず四足歩行の魔物はオオカミ型の魔物だったってことは報告するとして…、その魔物は近づくと戦闘になることなく森の奥…、あっちの山脈の方へと消えていった…、ってことにしようかと思う」


 ミナトが指す方向には高い山脈がある。グランヴェスタ共和国があるのとは別な方角、デボラと出会った火のダンジョンがある火山エカルラートを抱く北方の大山脈方面だ。


「報告した後で他の冒険者に確認に来てもらおう。そこで魔物がいないことが分かればそれで大丈夫さ」


 ミナトが冒険者ギルドへの報告内容を決定した。


「私はそれで問題ないと思うわ」


「マスターがそう決めたのであれば我からは何も言うことはない」


「ん。ボクもデボラと同じ意見!」


 三人とも異論はないらしい。


「あとはオリヴィアをどうするかよ。今回の旅に連れて行く?」


 シャーロットが聞いてくる。それに関してはミナトに気になることがあった。


「オリヴィアのことも考えるけど、その前にこのサンクタス・アピス聖なるミツバチの巣はどうなるのかな…?」


「この巣はもう完成しているし、サンクタス・アピス聖なるミツバチの雫が採れるくらいだから移動させることができるわよ」


 ミナトの問いにシャーロットが答えてくれる。


「移動させることができる?」


 ミナトが問い返すと頷いて肯定する美人のエルフ。


「そう。例えば王都の東にある大森林に持っていけば定期的にサンクタス・アピス聖なるミツバチの雫…、ミナトが言っていたドランブイを採取できるようになるわ。サンクタス・アピス聖なるミツバチの雫は美味しいから発見した者は自分達の縄張りに巣を移動して楽しむようにするの。オリヴィアも巣を持ち帰るためにここに留まっていたのよね?」


「その通りです。大好物でしたので…」


 シャーロットの説明をオリヴィアが肯定する。


「それなら大森林でおれ達がエンシェントトレントとかを保存している奥地に巣を移動させれば…」


「私たちで独占できるわ」


 シャーロットが笑顔で言った。


 ミナトは王都の東に広がる大森林の奥地を貯蔵庫として利用している。かつて斃したエンシェントトレントの残りや狩り過ぎた魔物をシャーロットの光の壁ライトガード氷の棺フリージングコフィンを施し時間経過が無視できる状態にして地中へ保管してるのだ。かなりの奥地で強力な魔物が出現するためシャーロット曰く、人族や亜人では絶対に到達することができない場所、とのことなので安心している。


「よし、この巣を大森林に移動させよう。巣はオリヴィアに護っていてもらおうかな?できる?」


「ミナト様のお心のままに!」


 そう言ってオリヴィアは胸に手を当てると一礼した。その様子を見ていたミナトがあることを思いついた。


「シャーロット?これから冬だけど王都って雪が降るのかな?」


「雪?そうね…、王都にも雪は降ると思うわよ?」


「大森林も?」


「あそこはダンジョンに似ている特殊な空間だから浅いところは雪が降るけど私たちが使っている深部の気候は一定していて雪は降らない筈よ」


 シャーロットの答えにミナトは笑顔になる。


「よし…、オリヴィア!これから転移テレポで巣と君を王都の大森林に移動させる。おれたちが戻るまで巣を護ってくれ!」


「承りました。ルガリア王国の大森林は私にとってすごしやすい快適な森です。皆様が戻られるまで巣を護りつつ寛がせて頂きます」


 オリヴィアが頭を下げる。


「シャーロット!この旅から帰ってきたらそこに皆が住める大きな屋敷を立てようと思う。この人数だと王都の店だけではちょっと狭いと思ったんだ。店を設計してくれたグラン親方も冬場は仕事が少ないってボヤいていたから頼めばやってくれるだろう…。どうかな?」


 グラン親方は王都で建築業や内装業を請け負っているグラン工房を取り仕切る工房長のドワーフである。ミナトは彼にBarの設計をお願いしていた。エンシェントトレントの素材が使えるということで素材の出所を詮索することもなく嬉々としてやってくれた職人である。彼なら大森林の奥地でも仕事を引き受けてくれるはずだ。火のダンジョンで燃え盛る土人形ファイアゴーレムとサラマンダーを乱獲して得たルビーも、水のダンジョンでジャイアント・フロッグを狩りまくって得た魔石もまだ大量にある。資金的にも問題ないはずだ。


「それはいい考えよ!大きな拠点はあった方がいいわ!」


 ミナトの提案にシャーロットが賛成してくれる。そう言ってくれて嬉しいミナトであったが、


「大森林の奥地…、強力な魔物が跋扈する深い森に建てられた建造物…、レッドドラゴンとブルードラゴンが多数、それにフェンリルもいる…、あ、あとアースドラゴンも追加予定。これはもう難攻不落の魔王城よね?」


「ルガリア王国に魔王城あり!という訳だな。流石はマスター!王国を隠れ蓑に世界に覇を唱える拠点を作るつもりなのだな!そうなってくると城下街もありなのではないか?我らの里から移住者を募ろうではないか!」


「ん!最強の王が住む何人も落とせない不落の城とその城下街!マスターにぴったり!」


 シャーロット、デボラ、ミオの三人がとびっきりの笑顔でそんなことを言ってきた。


「ちょ、ちょっと…、なんか認識が違うかな~、って思うんだけど…」


 そう言うミナトを気にすることなく三人の美女はとても嬉しそうだ。ちょっと…、いや随分と彼女たちとは認識の相違がありそうだ…。だが嬉しそうな三人に今ツッコミを入れるのも如何なものか…。グラン親方に依頼するときにはしっかりと誤解を解こうと思うミナトであった。

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