第73話 ミリム=ウッドヴィル
助けた女性がミリム=ウッドヴィルと名乗ったのでミナト達も各自を紹介する。
「おれはミナト。このパーティのリーダーでF級の冒険者です」
「私はシャーロット、同じくF級冒険者よ」
「我はデボラ、同じくF級の冒険者だ」
F級冒険者というのにミリムは驚いたらしい。『あれほど見事な魔法を使っておられてF級…』と言っていたがその話題を打ち切るかのようにシャーロットが尋ねる。
「ウッドヴィルってことは…、あなたは貴族?ミルドガルム公爵ウッドヴィル家の者ということ?」
ミルドガルム公爵ウッドヴィル家はこのルガリア王国における二大公爵家の一つでこの国の文官を取り纏める立場にある家である。
「ええ。流石に冒険者の方はご存じでしたか…。確かに私はミルドガルム公爵ウッドヴィル家所縁の者です。ですが今は一介の研究者です」
「あなたは研究者かもしれないけど私たちとしてはルガリア王国の二大公爵家の一つに所縁のある人物を下手には扱えないわよ。もし差支えがないのであればあなたのウッドヴィル家の立場を教えてほしいのだけど…。別に警戒はしなくていいわ。変なことをする気は全くない。私たちがあなたに危害を加えるつもりなら簡単であることくらいわかるでしょ?ただ冒険者として大貴族所縁の者に不敬を働いたってなると後々面倒になるから念のためよ」
「確かにその通りですね。先ほどの魔法の行使は見事すぎましたから…。改めて自己紹介をさせて頂きます」
そう言ってミリム=ウッドヴィルは三人に向き直る。
「私の名はミリム=ウッドヴィル。ミルドガルム公爵ウッドヴィル家の現当主であるライナルト=ウッドヴィルの長女です」
そうして優雅に一礼するその佇まいやはり貴族のそれらしい。
「現当主の長女って次期当主ってこと?ルガリア王国では女性の貴族当主も大して珍しくはないでしょ?」
「いえいえ、私はこのように研究畑が性に合っていたもので…。早々に継承権を放棄してそっちは弟に譲っております。父母や祖父は過保護なもので未だ屋敷と研究者の寮を行ったり来たりする生活ですが、いつかは家を出て研究者として在野で人生を終えることが私の願いですね」
その言葉に嘘はないようだし悪い人物ではなく、どちらかといえば気持ちの良い人物のようだ…、とミナトは感じていたが、
『現当主の長女って…。継承権を放棄していてもめっちゃ重要人物じゃない?』
『出会いってどこにあるか分からないものね…、私たちが力を誇示しないであの客さんに関わることは難しいって言ったばっかりだったのに…』
『完全に同意します…』
『流石はマスターだ!』
『別におれは何もしていないと思うのだけどもね…』
念話ではそんなことを話している三人である。だが、とりあえずは…、
「では先ず冒険者ギルドに戻りましょうか?護衛を放棄して逃げだした冒険者のこともありますし…」
とミナトは提案する。冒険者が依頼を達成できなかった場合、ペナルティのようなものがある。軽めの処置としてはギルドマスターからの注意や依頼失敗の公表。やや重いものとしてはランクダウンや一定期間の冒険者としての活動の禁止、もっと重いものになると法を犯した場合は騎士団へと突き出されることになるし、冒険者資格の永久剥奪、挙句の果てには賞金首にされてしまうこともあるのだとか…。
しかし被害にあったミリムが首を振ってその案を否定した。
「ミナト様。私は護衛を依頼した冒険者の方たちのことを不問にするつもりです」
「理由を伺っても?」
「私は研究者としてこれからも何度となくこの大森林を訪れる予定です。冒険者の逃亡を私が告発すれば今後私の護衛依頼を受け付けて貰えなくなるかもしれませんから」
確かにそのことには一理あると思うミナトであった。
「じゃあ私たちを雇わない?ギルドを通した依頼ではないけれど、臨時の護衛として雇ってくれたら屋敷まで同行してあげるわよ?」
間髪入れぬタイミングでシャーロットがそんなことを提案してくる。
『ミルドガルム公爵ウッドヴィル家に近づくせっかくの機会を手放すのも惜しいでしょ?』
同時にそんな念話が聞こえてきてシャーロットはミナトに向けて片目をつぶる。その愛らしい仕草を素直に美しいと思うミナトであった。
「ありがとうございます。可能であればお願いしたいと思っておりました。是非とも当屋敷においでください。ここではお礼もできませんので…」
シャーロットの提案にミリムもそう答えてくる。
とりあえずジャイアントディアー五体の亡骸にシャーロットが
そうして…、
「ここに辿り着いてしまった…」
『でも結果としてよかったんじゃないの?ミナトはあのお客さんのことを気にしていたし…』
『この件に関してはシャーロット様の言う通りだな』
気だるげに呟くミナトの背後に立つ二人の美女からの念話が届く。
ミナト達一行の眼前には大きな石造りの門があり、その先には遠くに見える白亜の屋敷へと続く道があった。そしてその門には白獅子のレリーフが填め込まれていた。
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