第68話 資料室で見つけたものは…
「ミ、ミナト…、私…、もうダメみたい…、短い付き合いだったけど楽しかったわ…」
そう言いつつテーブルへと突っ伏している美しいエルフ。いや、本来であればその凛とした佇まいと理知的で素敵な笑顔が周囲の視線を集めるのだが、辛うじて椅子に腰かけている彼女は危険を感知していない家猫のごとくぐんにゃりとテーブルへ身を預けている。これまでにない彼女の一面を目の当りにできてそれはそれでちょっとうれしいミナトであったが、
「シャーロット!大丈夫?」
「シャーロット様…。まだ二冊目では…?」
暗殺されそうになった貴族であるらしいお客の紋章が白獅子、暗殺者集団たちが逃げ込んだ貴族の紋章が黒獅子。それぞれの貴族の家について詳細を知るために冒険者ギルドで分厚い
「うぅ…。魔導書とか古文書とかの解析なら得意なのに…」
「それに関してシャーロット様を上回る存在がいる方がおかしいのだが…」
ぐったりした様子のシャーロットにデボラがジト目を送る。
「だって貴族の紋章なんて私にとって何の価値もないんだもの…。ミナトの助けになればと思ったけれどこれは想像以上に消耗する作業だわ…」
「何を仰る…。かつて世界を震撼させた破滅のま…」
「滅びを経験したいのかしら?」
デボラの言葉にテーブルに顔を伏したままのシャーロットから不穏な言葉と同時に彼女の周囲に剣呑な魔力が渦巻く。当然のごとく慌てるミナト。どうもシャーロットは彼女の過去のことについて触れられたくないらしい。誰もが知られたくない過去など持っているものだからミナトはそれを気にしていない。しかしミナトは問題ないとしてもこんな魔力を冒険者ギルドで顕現させれば騒ぎになるのは避けられない。そう思って周囲を見渡すといつの間にかギルドの資料室内は結界で覆われていた。ミナトが感知することができないほどの速さでシャーロットが結界を張ったらしい。
「ほう…。かつての我であれば平身低頭して詫びていたところだが…。我の種族をお忘れか…?今の我であれば一矢報いることも可能。討ち死にする覚悟があれば相打ちも不可能ではないと考えますが…?」
分厚い
【保有スキル】火竜を饗する者:
火竜を自身の眷属として相応しい形で強化し従わせる。眷属化した火竜の能力も限定的に使用可能。
火竜を
テイムスキル【火竜を統べる者】の上位互換。
現在のデボラはかつてこの世界に存在した魔王と呼ばれたものとほぼ互角の力を持っていると思われる。
「久しぶりの強者…。面白いわね…」
「我が命の輝きにかけて御抵抗させて頂く…」
ぐんにゃりとテーブルに突っ伏したままのシャーロットと
「ストップ!!二人とも退屈だからって何をやってるんだ!?」
ミナトの掌から生み出された二本の漆黒の鎖がシャーロットとデボラの胴体へと巻き付いた。一瞬にして資料室内を渦巻いていた強大な魔力が霧散する。結界も消えたようだ。ミナトの闇魔法である
【闇魔法】
ありとあらゆるものが拘束可能である漆黒の鎖を呼び出します。拘束時の追加効果として【スキル無効】【魔法行使不可】付き。飲んで暴れる高位冒険者もこれがあれば一発確保!
追加効果で彼女たちの魔力を一時的に封印した。
「フフ…。私の魔力を封じるなんてさすがよ!ミナト!」
「見事な魔法の発動…。素晴らしいぞ!マスター!」
なんのことはないといった様子で、とびきりの笑顔と共にそう言われてしまうミナト。どうやら揶揄われたらしい。
「さすがに今のは…。二人とも頼むよ…」
「「フフフフ…」」
いい笑顔で微笑み合う二人の美女。その姿は目の保養に十分であるのだが先ほどのやり取りは心臓に悪かったと思うミナトであった。
「ま、とりあえず紋章探しの続きをお願いします」
「もちろんだ!」
「わかったわ!」
ミナトの言葉にデボラは引き続き
「ミナト!これ白獅子じゃないかしら?あ、その次にも黒獅子が載っているわ!」
シャーロットが示すそこには白獅子を紋章とする貴族と黒獅子を紋章とする貴族の記述が載っていた。
「えっと…」
ミナトはとりあえず先頭に記載されている概要文に目を走らせる。
【ミルドガルム公爵ウッドヴィル家】
ルガリア王国において文化的中心地とされる水の都アクアパレスを中心とするミルドガルム地方を治める公爵家。その歴史は二代目ルガリア王国国王オルドス=ルガリアの第二皇子であったサイラス=ルガリアがミルドガルム地方の統治を任されウッドヴィル家を興したことに始まる。歴史あるこのルガリア王国における二大公爵家の一つでこの国の文官を取り纏める立場にある。紋章は白獅子。
【スタンレー公爵タルボット家】
ルガリア王国における交易拠点の要所である自由都市ミルドガルムを中心とするスタンレー地方を治める公爵家。その歴史はルガリア王国初代建国王バルバドス=ルガリアの弟君であるアルミアス=ルガリアがスタンレー地方の統治を任されタルボット家を興したことに始まる。歴史あるこのルガリア王国における二大公爵家の一つでこの国の武官を取り纏める立場にある。紋章は黒獅子。
ミナトはがっくりと肩を落とした。
「どうしたの?ミナト?」
「何が書かれていたのだ?マスター?」
ほんの少し時間をおいてそう言われた二人へと顔を向けたミナトは自虐的な笑みを浮かべ、
「これは新たなテンプレ的展開ってやつかもしれない…」
精一杯にそう呟くのであった。
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