第69話 さてどうしよう…
冒険者ギルドの資料室でぐったりと項垂れるミナト。狙われたお客と暗殺者らしき集団がルガリア王国を代表する二大公爵家ゆかりの者たちであったとはミナトの予想の遥か上の出来事であった。関わるとものすごい陰謀とかに巻き込まれる予感がする。
「これはどう考えても厄介ごとだよね。ルガリア王国は善政が布かれて安定した住みやすい国というのは実感があって間違いないと思うけど、王位を巡った暗闘は普通にあるってバルカンさんも言ってたし…」
「ミナトはこれがルガリア王国の貴族の暗闘に関連すると思うの？」
「なんの確証もないけどね。今思うとあのお客さん結構品がよかったよね。白獅子の家紋の屋敷に帰ったってことはミルドガルム公爵ウッドヴィル家の誰かなのかも…。まさか現当主とか前当主とかだったりして…。ヤバいな…、そんなことを口にすると現実になっちゃいそうだ…」
シャーロットの問いかけに答える中での不用意な発言を後悔するミナトである。この発言が現実になるのはできれば避けたい。できなさそうな嫌な予感がしてくる…。
「しかしこれからどうするのだ？マスターがそのミルドガルム公爵家の屋敷を訪ねてこれまでの事実を伝えるのか？」
「それはちょっと…。それにどうせ信じてくれないと思うし、もし不敬に取られたらこの国を追い出されそうだ」
デボラにはそう答えるが、確かにこれからどうするべきなのかがよく分からない。
「暗殺者が逃げ込んだスタンレー公爵タルボット家の屋敷に乗り込んでおれは事情を知っているぞって脅しをかけて何かを要求するって方法もあるわね」
シャーロットが絶世の美形に悪い笑みを浮かべてそんなことを呟く。
「それは悪の組織のやり口だよね？」
「それかあんなヘボい暗殺者よりもおれ達を雇った方がいいぞって方向でスタンレー公爵に近づくとか…」
「一応、お客さんの味方でありたいとは思っているんだけど…。それにおれが暗殺者になってる」
「伝説級の暗殺者なみのスキルと闇魔法を持っているじゃない？それに私とデボラが加わったら立派な悪の組織が出来上がるわよ？世界最強かつ最恐の組織ね」
悪い笑顔をかわいらしい笑顔に変えて物騒なこと言ってくるシャーロット。
「うちはＢａｒです。悪の組織じゃありません！！」
「冗談はこの辺にするとしても、私たちが表立って力を振るわないのであればこの件に介入するのは難しいわよ？」
真面目な表情にもどったシャーロットが美しい顔をこちらに向けてそう言ってくる。
「確かにね…。あのお客のことを一日中おれ達が護るのが無理なことは最初から分かっていたし。もし来店した時はまた帰り道で護ってあげることぐらいかな…」
「それが現実的かしらね」
「ふむ…。結局そこに落ち着くのか…」
「テンプレ的展開がなければそうなるね…」
「ミナトの世界にあったそのてんぷれって…」
「ま、まあ気にしないで！とりあえず調べ物は完了したってことにしよう。これからどうする？」
「ミナト！この季節キジバトとか鹿のお肉が美味しいの！マルシェで買ってもいいけど、自分たちで狩ったお肉はもっと美味しく感じるものよ。ギルドに常設依頼も出ているわ。まだお昼だし今日は狩りの依頼を受けてみない？」
常設依頼とは薬草採取に代表されるようにギルドが恒常的に出している依頼である。通常の依頼は依頼表を受け付けに持っていき受託の手続きをする必要があるのだが常設依頼は不要で目的の品を持ち込めばよいだけであった。
「キジバトは我も好物だ。冒険者にもなったことだし依頼を受けてみたい気持ちもある！」
デボラもシャーロットに乗ってくる。極上の美人といえる二人なのだがその見目麗しい外見に似合わず本当の意味で肉食系である。当然ミナトも肉は好物だ。
「よし！狩りという冒険に行ってみようか！」
「「賛成！！」」
三人は意気揚々とキジバトと鹿を探しにお馴染みとなった王都の東に広がる大森林へと向かうのであった。
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